月球儀の夢.
───何も視えない 「───…ィン ……009」 聴き憶えのある 柔らかな声、に 009───…ジョーの意識が光を目指し、ゆっくりと浮上する。 緩やかに開く視界に飛び込んだ、のは 夥しい迄の光量 と 心配気に自分に注がれる 柔らかな、空気。 「───…00、3…?…っつ!…──…」 知覚した途端、悲鳴を上げる 足許からせり上がってくるような痛み、に ジョーは眉を顰め『それ』から逃れようとするように自然と躯が折り曲がる。 はっ はっ、と短い呼吸音だけが辺りに 露出した冷たい感触、の 岩肌 うっすらと差し込む───…日の、光? かなりの光量、と感じたのだが実際には 横になった躯を起こそう、とするジョーをフランソワーズが静かに制する。 「そのままで…躯、辛いでしょう?…大丈夫、敵はいないよう、だから」 「…ぅん…」 ジョーが安堵したようにそっと息を吐いた。 予測外の爆風が吹き荒れる。 そう『予想外』 それが全てのきっかけ、で。 全てが予想外。既に廃墟、とは云え近代都市の形を取っていたその 誘爆 誘爆 誘爆 ことの起こりはギレモア邸に届いた 差出人不明の荷物。 一抱えはあろうかと思しき大きさの割に重量は然程ない、それ。 入っていたのは────… 1枚の地図 黒髪の ───そして 血塗れた───…小動物の、胴体部分 感じるのは、敵意でも殺意でも悪意でも無く。其れ、が 一層、恐怖を掻き立てた───… ───何も視えない 五感を奪われる事、が こんなにも… 「…皆、は…?」 普段よりも掠れた声、の009の訊いに003は 「…判らない、けれど───…大丈夫よ」 「大丈夫…?」 「悪運、強いから」 柔らかく響く、声 和ませようとする、軽妙な ───なのに ───何故、こんなに『不安』なんだ? 「003…」 「ぁ な、に?」 薄ぼんやりとした視界の中、003に向かって手を伸ばす。その意図を汲み取るかのよう、に 003の腕も又、 009に向かって伸ばされる。 掠める、指先 「…冷たい」 「…温かい」 お互いの口を ───何も視えない じわり、と 波紋のように拡がる、不安 「…暗い…」 「00、9… あなた、瞳、が───…」 密やかに暗闇へと近付く視界。刺すように走る、 未だ躯中が悲鳴を上げ続け、正直指1本動かすことさえ、億劫だ。 「…っ…!」 横たわる躯を起こそうとした途端に激痛が009を苛む。 「…じっとしてて」 耳許で感じた、何時もより低めの穏やかな、声が───希少な非戦闘時を髣髴とさせ。 さらり、と 冷たく湿った指が髪を撫でてゆく。 「大丈夫、…だから」 ───繰り返される、 云い聞かせるかのよう、で ───誰、に…? 静かに閉じた瞼に浮かぶのは、ほんの少し前───… 猛る爆風 劈く轟音 崩れ落ちる、壁 爆風に煽られ、吹き飛んだ ───吹き、飛、ん、だ…? 吹き飛んだ躯、から迸る、音無き、 『フランソワーズ!!!』 「…君、は」 気付いた刹那は既に時遅く───…間に、合わなくて。 それ、でも 諦める、なんて 出来る筈もなく 精一杯、腕を伸ばして 引き寄せた、小さな躯 「…ごめ、ん…」 空気の振動が伝える 掠れた、声 急速に 熱を奪われ 色を失って 倒れ往く…─── 差出人不明の『荷物』を彷彿とさせる、 血塗れた、躯 ハッ ハッ ハッ 血塗れのよう、に 流れ落つる 汗 震えの止まらぬ、肩口 切れ切れに吐き出される、呼気 ─── 「ゆ、め…?」 「……ジョー…、どうか、した?」 見慣れた天井 心配そうに覗き込んで来るのは───…同じ青い防護服を纏いし、憂い顔の彼の人。 差し込む、仄明るい月明かりに縁取られた、何処か頼りなげな、その姿───… 重なる 瞼の裏に蘇る 倒れ往く───… 「随分うなされていたけど…交代、もっと後にしましょうか?誰 …ぇ?」 「…ッ、ジョー!?」 抱き締めて来る、躯から伝わる 恐怖、不安…─── フランソワーズはそっと力を抜くと、くせの有る栗色の髪、に 唇を寄せた。 「大丈夫、だから」 奇しくも『夢』と同じ、に与えられる、科白。 「── 「過去の夢…?」 「終わってしまった───…疾うの昔、の」 ───何も視えない それ、は 『視たくない』と云う、己が 「大丈夫だよ…予定通り、交代する」 簡易ベッドから起き上がるとマフラーを巻き、1歩を踏み出す。 無風で有る筈の室内で、歩みに合わせて長いマフラーが、鮮やかに翻る。 其れ自身が、意志を持つかのように、力強く、しなやかに。 ───そう…大丈夫 まだ、大丈夫 大丈夫、にしてみせる 護りたいもの、が 僕には有る、から この あなたを護る為に有るのだから |
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