片翼天使 3




         お互いが存在しなければ自らも存在出来ず。

         表裏一体。


         海と 空と
         蒼と 青と 藍


         それは 彼 の瞳の光彩
         それは 彼女の瞳の光彩



         何処までも曖昧な境界線



         彼 と 彼女 と

         恋 と 愛 と ‥‥ 名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』





         ‥‥ なのに

         運命 とは皮肉なもの で。
         半身を手に入れた『 天使 』は自らの力で空を翔る、が その方向 は
         必ずしも 同じ、とは 限らず。

         長きに渡り『 人間 』だった故の 弊害か。
         お互いが 存在しなければ、自らも 存在出来ない、のに
         お互いを 視るコトは なく。



            大いなる 矛盾


            それ でも ‥‥‥








        「 それでも‥‥あなたの半身は わたし よ 」


            喩え ‥‥ それが『 恋 』では なく、ても


        「 ‥‥わたし以外には 有り得ない の 」


            喩え ‥‥ それが『 愛 』では なく、ても


        「 誰にも 渡さない 」


            喩え ‥‥



        「 あぁ ‥‥判ってる 」


                   名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』





        「 許さないんだか ら‥‥ っ !」


         瞳に溢れる液体は 落涙寸前。
         それでも真っ直ぐに‥‥真摯に ジェットを見つめる ‥‥
         自分を惹きつけてやまない 蒼。

         我が侭で強欲で ‥‥ 自分を ‥‥ ジェットを見ることはない のに。


            ‥‥ それ でも



                   名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』





        「 わた し を ‥っ 擱(お)いて 逝く っ の、 はっ‥‥! 」



            どんな愛の科白より

            どんな愛の行為より



                   名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』




            喩え 触れ合うことがなくても

            喩え 熔け合うことがなくても




         落涙する代わりにフランソワーズは自らの躯をしゃがみ込ませた。
         寄せてくる波間に座り込むフランソワーズの正面を陣取り、ジェットは
         自らも座り込み 膝を立てる。
         割った膝の間へ フランソワーズを包むように挟み、長い手で彼女の背中へ
         向かって 円を描くように輪を造る。
         輪を造る寸前に刹那 触れる ‥‥ 指先。
         髪から頬に掛けての 緩やかな ‥ まろやかな ライン。

         たった それだけ の


            決して 触れることの無い位置
            決して 触れることの無い距離


         フランソワーズも又、膝立ちになると ジェットの後頭部へ向かって
         円を描くように輪を造る。


            決して 触れることの無い位置
            決して 触れることの無い距離




            それは まるで 神聖な『 儀式 』のよう で




            生きてゆく ため の

           『 天使 に 戻る 』 ため の





         唐突に、視線が 合った。

         真っ直ぐな 視線 ‥‥ 秘められし 強い意志。




         海と 空と
         蒼と 青と 藍


         何処までも曖昧な 境界線


         彼 と 彼女 と

         恋 と 愛 と ‥‥ 名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』



         どれ程寄り添っても 交わることのない ‥‥ 2人。




         それ でも ‥‥‥






         ぱさり

         浅瀬に座り込み、見つめ合う2人の頭上から降ってきた バスタオル。

        「 イワン!? 」

         クーファンがふわふわと宙を舞い、ジェットとフランソワーズの間を陣取る。
         バスタオルを肩から掛け、フランソワーズは 徐に立ち上がった。
        「どうしたの こんな処まで ‥‥ 何か あった ?」
        “別二何モ ナイョ”

        「‥‥ そう 」
         フランソワーズは、安堵したように ふわり と 微笑う。
         ジェットはと云えば ‥‥ 憮然とした表情(かお)でイワンを視つめている。

        「お前 ‥‥見計らってただろ タイミング」

        “‥‥何ノ云ッテルノ?ジェット”


        「‥‥じゃなかったら 何でジョーとアルベルトも来てんだよっ!」




         イワンの遥か後方には 1台のオープンカー。
         傍らには、煙草をふかす アルベルト と、複雑な表情(かお)のジョー。

         イワンはクーファンから飛び降りるようにして フランソワーズの
         腕の中に飛び込んだ。
        「わっ 危ないわ よ イワンッ!」
         イワンは無言のまま、フランソワーズの顔を、じっと視つめ ‥‥
         海水に濡れた頬に 自分のソレを寄せる。

        「 ‥‥ イワン ? 」

        “ 消毒 ‥‥莫迦が移ルト困ルシ ”

         その科白(ことば)にフランソワーズは綺麗な微笑を口許に浮かべる。
        「ありがとう イワン」
        「‥‥ちょっと待て 『 ありがとう 』って何だよ それっ!」
        「科白(ことば)通りの 意味」
         云いつつ、イワンに頬擦りする フランソワーズ。
         イワンが赤児らしくない不適な笑みで ジェットを ちらり と一瞥する。


        “ダッテ 莫迦ジャナイ”

        「‥‥‥‥」


         イワンの科白に 最早何を云う気にもならないジェット。




         何時の間にやら、ジョーとアルベルトがすぐ近くまで 来ていた。
         アルベルトは 何やらフランソワーズを見つめていたかと思うと、
         煌く亜麻色の髪を 一筋 掬い取り ‥‥ やっぱり 口付ける。

        「 アルベルト‥‥? 」

         フランソワーズの頬がほんのり紅色に染まり、その声には動揺が感じられる。

        「 消毒 」

         そう云うと、ジェットへと視線を移し にやり と笑った。


            コイツ イワンの科白 聴いてやがったな ‥‥


        「あ〜‥ やっぱ親子なんじゃねぇの?アンタ等 やる事為す事 そっくし」
         顔も似てる し?と ジェットは 恐れ知らずな暴言を吐く。
         その科白に瞳を見開く フランソワーズ。


        「 命が惜しくないようだな キサマ は 」

        “ 命ガ惜シクナイミタイダネ ジェット ”


         ‥‥ 云うことも、実はそっくりな2人。
         ジェットの『 指摘 』も たまには 的を得たもので ある。





         アルベルトはフランソワーズの腕に納まっているイワンを無言で受け取ると、
         車に向かって 歩き出す。

         一方、ジョーは と 云えば。


         4人の遣り取りを少し離れた処から ‥‥ 只 見ていた。
         恐らく、内容に『 完全に 』聴こえているだろう。
         そして、フランソワーズとジェットの纏う『 空気 』に も ‥‥



        「 迎えに来てくれたの? 」
        「‥ あぁ 約1名 心配で心配で堪らない表情をしたのが居たから な」
         アルベルトの科白(ことば)にフランソワーズは苦笑する。
        「それって 離れて立ってるヒト?」
        「 近づけないんだ と、『 俺達 』には 」



                  『 第1世代 』



         大きくて深い時間(とき)の隔たり
         それがジョーに あと一歩踏み込むことを躊躇させている。


        「お互い様 なのに ね」


         フランソワーズはバスタオルで髪を拭きつつ、ジェットに視線を投げる。
         ジェットはと云えば ‥‥ フランソワーズと同じように 髪を拭きながら
         フランソワーズを無言で見つめている。


        「‥‥ジェット?」


         不審に思ったフランソワーズがジェットに歩み寄ろうとした瞬間(とき)。

         たたたっ と軽やかな足音がしたかと思うと、フランソワーズは 温かな
         感触に包まれた。 視界を塞ぐ 愛しいヒトの 胸。
         労わるように ‥‥ そのくせ、しがみ付く様に抱き締めてくる 『 彼 』。
         自然に、ゆるやかに フランソワーズの腕が持ち上げられ、『 彼 』の背に
         手を廻した。


            ‥‥ 何の 躊躇も なく



        『 好き 』だと思うこの『 男性 』は求め続けし『 魂の半身 』では なく。

         求め続けし『 魂の半身 』は『 愛するヒト 』では なく ‥‥ 。


        『 愛するヒト 』が『 魂の半身 』であったなら

         もっと ‥‥ 違う形の『 幸せ 』が掴めたのかもしれない



            愛しているから 触れないで
            愛しているから 抱き締めて



         矛盾する『 想い 』



        「〜〜っ 消毒っ!!」

         そう云いつつ、フランソワーズにしがみ付いてくる腕に身を任せて。



            判りきっている こと とて

            何故に 切なく 痛む 胸




        「あ〜あっ お子様はお子様のラブシーンでもやってろっての!」

         一際、大きな声を上げて ジェットは抱き合うジョーとフランソワーズの
         横を通り過ぎる。


         すれ違う刹那、かち合う 視線 と 微かに聴こえた科白(ことば)。



        「想い(こころ)は あげられない けれ、ど ‥‥ 居る、から ‥‥
         魂(こころ)は 何時も ‥‥ 傍(そば) に」




         瞳だけが ‥‥ 微笑(わら)う


         瞳だけが 相手を求めて
         瞳だけが 相手を求めて


         瞳だけ が ‥‥



                   名前さえ付けられぬ 切なる『 想い 』





         どんな愛の科白より

         どんな愛の行為より



         雄弁に語る『 遠い記憶 』







                   『 魂の半身 』







         海と 空と
         蒼と 青と 藍

         彼 と 彼女 と


         それは 彼 の瞳の光彩(いろ)
         それは 彼女の瞳の光彩(いろ)



         ‥‥ 何処までも曖昧な『 境界線 』




         永遠に交わることはないけれど
         何時も背中併せに 寄り添って



         ‥‥‥ 誰よりも近くに









                 『 魂(こころ)は いつも 傍(そば) に 』











BACK

よく考えると結構酷い‥‥
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送