琥 珀 月(こはくづき)
















                                    ゆ き




                         ゆ き








           ゆ き













         触れられることなく消えてしまうそれ、は
         お前に触れる資格はない、と言外に云われたようで




                        ───────酷く、刹那い


















暖冬、とは云うものの 全く寒くない訳ではなく。
呼気が外気と触れ合って 白く色付き、頬は寒気に晒され、季節を先取るよう に、ほんのり春色に染まる。
この年、関東地方に初めて『ソレ』が訪れた、日。

僕、は小さな灰色の毛玉を拾った。














「‥‥ゆ、き」






────初雪が降った日。
灰色の毛玉は数時間のうちに、真っ白な綿毛に生まれ変わり。
拾った『元』灰色、に 僕は「ゆき」と名付けた。




「なーぅ」




名前を呼べば、尻尾を一振りさせ 嬉しそうに鳴く。
駆け寄って、擦り寄って。
小首を傾げて見上げてくる姿が、何故か 微笑ましくて。


片手ですら余る程の大きさ
抱き上げてみるとその軽さに動揺して
その温もりが恋しくて
頬を舐める、ざらついた舌の感触に胸がざわめく────────






今にも壊れてしまいそう、な







────思いがけず、ゆき を 気に入ったらしいのがイワン、で。
普段は昼の時間で在ってもクーファンに入ったままであるのに、わざわざリビングのカーペットに下りてきて
「ゆき」を興味深そうに見つめている。


“‥‥フフッ”

「みゃー」


イワンが首を傾ければ「ゆき」も首を傾ける。
イワンが手を伸ばせば「ゆき」も前足を伸ばす。
転がれば、嬉しそうに 尻尾を振る。


如何やら意思の疎通が取れているみたいだ。




    ───────僕には判らないけど




きゃっきゃっ、と喃語混じりの笑い声を上げて戯れるイワン、を ジェットは人の悪い笑みを浮かべて

「人間ねこじゃらし」

───等と、また迂闊なことを云って、クーファンを鼻にぶつけられたり。


ソファに腰掛けてカップを抱え込むような格好でホットコーヒーを飲む僕、と ゆきを交互に眺めながら

「仔猫が1匹、仔犬が1匹」

───なんて云うもの、の


「序(ついで)に鳥も1羽──‥ここは何時から動物園になったんだ?」
「寧ろペットショップだと思うけど‥僕、は」
「ペットショップに鶏が売っていたとは初耳だな」
「鶏?おまハン『焼き鳥』食べたいアルか?なら仕入れてくるヨロシ───自腹でネ」


間髪入れず、背後からアルベルトやらピュンマやらグレートや張大人からツッコミのような 掛け合い漫才のような
深い意味があるのか無いのか判らない科白(ことば)が色々反(かえ)ってきたり、して。

その隣でコーヒーを啜るジェロニモが口許を綻ばせていて。



小さな頼りない生き物を中心にして、空気の色彩(いろ)が変わってゆく。
ゆきの放つ仄かな体温のよう、に


それ、は───‥酷、く




平凡、で
緩慢、で
長閑、で





                                                 弱くて







埋め尽して








『reset』





拭い去って








『restart』




                                                 強くて








穢れなき







『象 徴』













只々、その存在、が

────いとおしくて





「───いいね、こういう、の」







去来する 柔らかな 想い






僕の科白(ことば)に皆、何も云わなくて
否、云わないからこそ伝わってくる心遣いに、胸が篤(あつ)くなって



              不覚にも涙が出そうになる‥‥───────














「────ジョー、も 鶏肉食べたいアル‥‥か?」




    ────ぇ〜っ、と‥‥ 張大人?




















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