巡り逢わせ
「 ‥‥三十路の男も中々可愛らしい処があるじゃないか 」
禿げ上がった頭 の、ゼロゼロナンバー最年長の彼の人は ジョッキを傾ると、
最期の一口を 飲み干した。
揶揄(からか)われた側の 三十路男は と云えば ‥‥
相変わらず 苦虫を噛み潰したような表情(かお)の 憮然とした態度のまま
グレートと同じように ジョッキを傾ける。
拗ねたようにも感じられるその一挙動に グレートは更に笑みを深くする。
‥‥ 勿論、アルベルトに 気付かれないよう に。
「‥‥まぁ そう 拗ねなさんな 若造」
「‥‥それは 慰めてるの か? ‥‥煽ってるの か?」
「 両方 」
刹那、火花が散ったように見えた のは ーーー 気のせい ではあるまい、が
目の前の、飄々とした年配の男に それは 微塵も通用しなかった。
眉間の皺を普段(いつも)以上に深くしたアルベルトに グレートは、ひらひら と
手の平を振り 微かに ‥‥ 苦笑 する。
「冗談さ ‥‥『 死神 』を煽る程 厚顔無恥ではないぞ 我輩は」
「今のままでも 充分過ぎるほど 厚いと思うがな ‥‥ツラの皮」
「おやおや 今日は随分と絡みなさるね ムシの居所でも悪いのかい?」
「‥‥その『 居所 』とやらを悪くしてるのは 誰 だ?」
「そりゃお前さん自身だろう」
「‥‥‥‥‥」
アルベルトは ジョッキを傍らのアウトドア用テーブルに置き、溜息を付いて頭を抱え込む。
「‥‥アンタと話していると頭がオカシクなりそうだ‥‥」
諦めにも似たアルベルトの科白(ことば)に グレートは この上なく 楽しげ に
嬉しそうに 微笑う。
「そこは ホレ 『 年季 』と『 歴史 』ってヤツの違い だな」
『 年季 』と『 歴史 』 ‥‥‥ ?
「‥‥に しても日本人 ってのは『 儚きモノ 』が好きな人種と見えるな」
「 儚き もの ‥‥? 」
「さよう 先刻、若者が興じていた『 花火 』然り 春の『 桜 』然り‥‥」
グレートが 静かに瞳を伏せる。‥‥ 何か、をその瞼の裏側に描くよう に。
「 ‥‥『 ジョー自身 』然り 」
その科白に アルベルトは、弾かれるよう に グレートの顔を伺う。
佇む横顔 から、内情を 読み取ることは 出来なかった、が ‥‥
「執着、と云う発想がない のか‥‥ それ を『 恥 』とする人種なのか」
誰に聴かせるでもなく、吐き出される科白は ‥‥ 何処か『 痛々しさ 』を内包、して。
「『 生命(いのち)の煌き 』を『 知る 』から、なの か 」
「喩え 人間(ひと)ではない 人造物‥‥造り出されし『 無機物 』に対しても
『 想い宿すモノ 』として ‥‥ やがて『 無 』に帰す 存在、として」
その精神の在り方 は、何処かジェロニモにも 似て。
『 カタチ在るモノ 』は ‥‥ 何時か 壊れてしまう よう に
生物が『 生 』を 終え ‥‥ 土に還る よう に
造られし『 無機物 』も ‥‥ 造られる以前(まえ)、の 元素へ と
『 還る 』のだ ‥‥ 自分が望む 場所 へ
だから、こそ ‥‥ 刹那(いっしゅん)すら ーーー 『 いとしい 』 と
儚き生命(いのち)の中の 力強さ を ‥‥ 信じて
輪廻転生
回 帰
季節が巡り きっと又 巡り逢うコト を 信じて ‥‥ 願って
「‥‥と 最近読んだ本に 書いてあった」
「他人(ひと)が折角 真面目に聴いていたモノを ‥‥受け売り か」
「我々には‥‥ 西側には無い 発想 でなぁ ‥‥ついつい面白くて」
ははっ と眉を下げ、困ったように笑う表情 は一瞬前の それとは 違っていて。
「『 儚い 』より 寧ろ‥‥『 潔い 』んだと 思うが な 」
気紛れ、のよう に『 死神 』の口から 生み出されし 科白(ことば)。
科白と共に 注がれし 視線の先 は ‥‥ 戯れる 永遠の若者達。
「大体、野郎に『 儚い 』なんて 似合わないし 似合って欲しくない な」
「‥‥気持ち良いモンじゃないこと は 確か、だがね」
2人はお互いを見ることなく、淡々 と言葉を繋いでゆく。
「不思議なものでなぁ ‥‥もう『 役者に戻る 』ことなど 出来もしないのに
『 この体験は、何時か使えるかもしれない 』なんて 考えちまう」
執念、と云うか 哀しき性(さが)とでも云うかねぇ とグレートは、ウッドデッキに
頬杖を付き ‥‥ ひっそり と 自嘲(わら)う。
年輪を刻んだ横顔 に、先程の科白が 静かに ‥‥ 重なってゆく。
『 年季 』と『 歴史 』
人間(ひと)として 同じ過ちは犯すまい とする 歴史(こころ)
役者(ひと)として 貪欲に求めずには居られない 年季(こころ)
「 何時か‥‥ 」
「 ‥‥ん ? 」
「何時か ‥何かの役に立つさ ‥‥きっと」
「何の役に立つんだかねぇ」
「アンタ次第、だろう?‥この世に『 偶然 』はない‥‥ 全て『 必然 』さ」
「 おや 『 死神 』の科白 とは思えぬコトを云う ではない か 」
一瞬 瞳(め)を瞠り、グレートは興味深げに アルベルトに視線を向けた。
そのアルベルトの視線 は、自ら の『 鋼鉄の腕 』に向けられて いる。
「『 必然 』と云ってしまう には ーー余りにも 過酷 だがーーー それ、でも」
現在(いま) ここに存在している事実(こと) に
惜しみない 『 感謝 』 を
「 美味い酒が 呑める事 に ? 」
「 下手な『 シェイクスピア 』が観られる 事 に 」
肩を並べ、瞳(め)で 若者達を追いながら ‥‥ 微笑(わら)う。
『 我が子 』だと云っても おかしくない −− 若者の姿を留めし者達 に
辛い日々を共に過ごした者達、と 潔くも 儚い 優しい風貌の 彼の人 に
大いなる 希望の光を 宿しし 彼等に ーーー 想い を 託して
現在(いま) ここに存在している事実(こと) に
惜しみない 『 感謝 』 を
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何が書きたかったんだ?自分よ‥‥(困惑)
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