皆が思っているコト




         初夏の風薫る、この季節。穏やかな日差し差し込む ギルモア邸のリビングで
         008 こと ピュンマは熱心に雑誌を読んでいた。

        「なぁに?そんな難しい表情(かお)で雑誌を睨んで」
         凛とした 涼しげな声音(こえ)が、ピュンマの前方から降りてくる。

        「ん〜?ぁあ PC買い換えようと思ってね、『 物色中 』だよ」
         そう云って眺めていた雑誌から瞳(め)を離す ‥‥ と、目の前のテーブルに
         さり気なく置かれた 大きめのマグカップ。なみなみ と注がれたミルクティー。

        「 ありがとう 」

         お礼を云って ふわり と微笑む。

        「 どういたしまして 」

         フランソワーズも ふわり と微笑んで返事を還す。


        「‥‥で いい『 物件 』は 見つかりそう?」
        「そうだなぁ‥‥どれも遜色ない感じ‥ 出来るだけ容量の大きいのがいいな」
         現在(いま)のパソコンはもうメモリが足りなくてね、と 苦笑しながら
         ミルクティーを口にする。ほのかな甘さが口の中に拡がるのを感じて、ほっ と
         一息付いた。フランソワーズもまた ピュンマの向かい側に座り、昼の時間に
         入ったイワンを抱きかかえ、ミルクティーを飲みながら 雑誌を覗き込む。

         あぁでもない、こうでもない と2人してパソコン論議をかもしつつ、雑誌を
         挟んで 楽しげに、顔を寄せ合っていた。







        「フランソワーズ‥‥ 気を悪くしないで 聞いて欲しいんだけど‥‥」
         ふっ と雑誌から瞳を外し、フランソワーズの表情を伺う。
        「?何 そんな改まって」
         蒼い瞳を見開き フランソワーズは小首を傾げた。


        「君達‥‥ 『 第1世代 』って 同じ規格 なんだよ ね?」
        「『 規格 』‥‥? あぁ 補助の電子頭脳のこと‥‥ そうねぇ 確かに
         同規格だった と 記憶してるけど ‥‥それが どうかしたの?」

        「ずっと思っていたんだけど さ‥‥ 確かに『 同規格 』でも、
         フランソワーズの『 索敵能力 』、アルベルトの『 銃器能力 』ってのは
         結構な量のソフトをインストールしてる 訳 ‥‥だよね」
         その科白(ことば)にフランソワーズは困ったような笑顔を浮かべた。
        「いやだわ ひとのコト パソコンみたいに云わないで よ」
        「だから 先に振っといただろう? 気を悪くしないで聞いて欲しいって」
        「 まぁ いいわ ‥‥そうねぇ あなたが云う処の『 ソフト 』は
         確かにアルベルトとわたしはかなり多い、って 以前に‥‥ギルモア博士
         から聞いたことがあるわ」


        「 ‥‥だよね 」
        「 ‥‥どうかした?ピュンマ 」


         うん‥‥ と言葉を濁してピュンマは天井を仰ぐ。
        「ってことは さ ‥‥ジェットが1番少ないんだよね『 ソフト 』」
        「そういうコトに なるかしら」

        「‥‥まぁ 手先の器用さ なんてのは生来のモノだろうから仕方がない と
         思うんだけど‥‥ 同規格でソフトが少ないってことは、それだけ『 容量の
         空き 』が多い ってことだよね」
        「わたし達はパソコンじゃないってば‥‥ でも そう、ね そう なるかしらね」
         くすくすっ とフランソワーズは柔らかく微笑む。



        「‥‥ なのに 何であんなに『 記憶力 と 学習能力 』ないんだろう」


        「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」


         ピュンマの科白(ことば)に フランソワーズは、まるで ピキンッ と
         音を立てたかのように 言葉を失って固まってしまった。

         ‥‥ カップを取り落とさなかったコト、だけが 幸いだ。




         そんな 奇妙な静寂を撃ち破ったのは ‥‥ フランソワーズの腕の中に
         納まっていた 恐らく『 世界最恐スーパー赤児(あかご) 』 ‥‥ イワン。






        “ 戦闘ノ度二 初期化シテルンジャナイ? ”






         ‥‥ その直後。

         ギルモア邸のリビングから男性1名、女性1名 ‥‥ そして赤児1名の
         盛大な笑い声が聞こえたのは ‥‥‥‥ 云うまでもない事である。












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初期化だぁ 自分で自分の 地雷踏み(詠み人 まるり)←トラウマ
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