適(てきやく)役
向けられる、背中 その強さ、も しなやかさ、も 知り尽くしている、けれど 不意、に、すがりたく…なる 夏はとうに過ぎ、学生達は所謂衣替えの時期を過ぎ───…陽射しが日に日に弱さを増してゆく。 海に面したリビングの大きな窓から、海面をそっと眺めて…小さな小さな溜息ひとつ。 「んじゃ、ちょいと行って来らぁ!」 常日頃よりテンション高い声音が、今日も変わることなく、邸内に響く。 「ジェット 出かける、の?」 「ん?あぁちょっとな…そんなに遅くはならないと思うぜ」 「…そ、ぅ…」 「どうかしたのか?フラン」 「…うぅん 何でもないわ…気を付けて」 何処か不安気な 小さく溜息を付くと、 「ンな表情して『何でもない』訳ねぇだろ?…直ぐ還ってくるから待ってろ」 話くらい訊いてやるから、と、耳許で低く囁くと、ジェットは足取り軽くギルモア邸を飛び出していった。 見送るフランソワーズの背中がやけに頼りなげに感じたのは…気のせい、だろうか。 一連の遣り取りを訊いていたアルベルトとジョーだったが、意外にも行動を起こしたのはジョーだった。 「フランソワーズ?」 「え、何?」 「ジェットに何か用、なの?」 「ぇ?…えぇ」 「僕がやろうか?手、空いてるし」 刹那、瞳を丸くしたフランソワーズだったが、やがて其の瞳を柔らかく細め───… 「ありがとう、今回は気持ちだけ頂くわ」 「でも!」 「其れ位にしておけ」 不毛な会話を止めに入るアルベルト。手許の本から 「お前さんにゃ、無理だからな」 「…?それってどういう事?」 「性格」 「…性格??」 ますます話が見えなくなるジョー。頭の廻りには?マークが飛び交っている。 「フランソワーズは直前まで何をやっていた?」 「?ダイレクトメールの整…ぁ」 「…確かに僕には無理…」 「判れば良し」 ───まるで禅問答のような会話では有るが、2人の間ではしっかり意図は通じている。 DM ダイレクト・メール 其れは女性の女性による女性の為の、モノ。所謂『バーゲン』と云う代物、であり…───この場合に限って、で有るが。 殊勝な表情、の、フランソワーズの瞳の奥は既に獲物を狙うハンターの瞳であり、家計を預かる人間としても、絶対に外すことの 出来ないスペシャルプロジェクトなのである。 その華奢な筈の背中は誰よりも気迫に満ち溢れており、先程ジェットに垣間見せた『不安さ』等カケラも見出せない。 「格好良いなぁ フランソワーズ」 「…其れもどうかと思うが…」 「ジェットはこの 「───…知る訳ない、な」 恐らく、殆ど『 「… ジョーの素直な科白に何も云えないアルベルトであった。 |
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