曲(きょっかい)解 ぷつん ぷつん 胸元から外されてゆく釦(ボタン) 逸らしていた顔をゆっくりと上へ向け、自分を組み敷く人、に 視線を合わせる。 口許に浮かんだ微笑 細められた瞳 釦を外した、その指、が 緩やかに髪を梳いて。 柔らかな愛撫 優しいその手に触れたくて、そっと腕を伸ばす、と 「──‥ん?」 ────遣わされる、のは 訊う、ような 吐息のような 微かな声、と 甘い口吻け 触れる手、は 己の其れより 冷たい、のに 触れる唇、は 己の其れより すっと熱くて‥────── 「‥‥って、何だぁ?ヌルいポルノ小説か?」 「純文学」 眉間に皺を寄せた、グレートがタイプライターを打つ手を止める。 傍に座り込んでいるジェットが手にした紙を取り上げ、大きな溜息1つ。 「此れの何処がそんな低俗なモノなんだかな」 高尚な芸術作品が理解出来ないとは嘆かわしい、と 小さく愚痴る。 傾いた日差し差し込む海沿いの部屋、で のんびりと交わされる、会話 緩やかに流れる時間 穏やかな空気 「ここだけ読むと、フランソワーズのこと、みたいだね」 爆弾を投げ込むのは、自覚の全く無い、ジェットと同じように傍らに座り込む、ジョー。 「何でだ?」 「此れと同じ光景、先刻(さっき)見たから───‥小1時間位前」 ─────何、ですと? 「‥‥ちょっと待て」 嘘、だと思いたい‥───でも 「お前、小1時間前 何処に居た?」 「───‥僕の話、理解してる?」 先程のグレート同様、に ジョーも小さな溜息1つ。 「フランソワーズ、と‥────」 固有名詞が出た瞬間、ジェットは悲鳴を上げ、ドップラー効果と共に走り去ってしまった。 「‥‥何、あれ?」 「我輩に訊かれても困る」 クエスチョンマークを浮かべ、ジョーは小首を傾げる。グレートは我関せず、とばかりに、タイプライターに向き直った。 |
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