真相




        「 暇 つぶ し ‥‥? 」
        「そぅ 何時ものコト、なの アルベルトとイワンが ジェットで遊ぶのは」
        「理由って‥‥まさか それ だけ?」
        「 それだけ 」


         買い物帰りの車中 運転しつつも ジョーは頭を抱えたくなった。
        『 暇つぶし 』の為、だけ に 花束やら あまつさえ ‥‥



            ‥‥ フランソワーズに触れる、なんて



        「‥‥まぁ それに便乗する わたしにも 非はあるんだけど」
         ぺろり と舌を出し、フランソワーズは無邪気に 微笑う。
         ジョーは自らの思考の海の中を漂って ‥‥ 寧ろ溺れ掛けていた一瞬(とき)
         タイミングを見計らったかのように フランソワーズの声が至近距離から響く。


        「あの花 ね‥‥ コズミ博士から よ ‥‥それ位は 気付いて た?」
        「 え ? そ ‥ぅな の? 」
         やだ、ジョーったら とフランソワーズは、くすくす と可笑しそうに笑う。
        「ちょっと見れば判ること よ?‥ラッピングもしてなかったし‥‥」
         そこ迄云って また くすくす と声を上げて笑う。


        「第1‥‥ 赤児を 荷物みたいに横抱きにして『 プロポーズ 』なんて云う
         人間(ひと)が 何処に 居ると思う?」


        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ そぅ 云え ば‥‥‥‥‥‥‥」


         ジョーは、その時の状況を脳裏に思い浮かべた。
         無造作に抱えられた花束とイワン。『 プロポーズ 』だと云う割には笑ってた
         口許、そして ‥‥ イワンの『 まま 発言 』。
         よくよく考えれば ‥‥ 否、よくよく考えなくても判りそうな モノ だ。


        「‥‥鈍いんだ 僕って」
        「今頃 気が付いたの?」
         相変わらず笑っている フランソワーズ。
         それにね、と秘密でも話すように 少し声音(こえ)を顰め 顔を寄せる。




        「本当に好きな女性には そっけないのよ ‥‥アルベルト」

        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ はい ?」


        「今迄‥‥ 過去に見聴きした こと ‥‥思い出して みて」
         ぐるぐるぐるぐる ‥‥‥ ジョーは記憶回路をフル稼働させる。


        「え〜っと ‥‥ビーナ、とか ビーナ、とか ビーナ、とか‥‥?」

        「ご明察」
        「‥‥‥何となく 納得」
        「2人っきりのときは 判らないけれど 少なくとも、人前では ね」
         記憶を辿ると、思い当たるフシは沢山ある ‥‥ ような気がする。

         何を云う訳でもない、何をする訳でもない ‥‥ 只 ‥‥




        「そっけない、けど ‥‥『 温かくて 優しい 』」




         ‥‥ 何より も


         雄弁に語る その 瞳

         雄弁に語る その 態度

         雄弁に語る ‥‥


                   柔らかな響きの バリトン






         ジョーの科白(ことば)に、フランソワーズは ‥‥ 静かに瞳を伏せた。



        「‥‥うん ‥‥それで も ‥‥   不安 になるの よ‥‥ ね」
        「‥‥フラン ソワーズ ?」

        「言葉にならない モノ だってことは 判るの ‥‥でも‥‥ でも、ね
         それ でも‥‥『 言葉 』が欲しいコトも ‥ある の  喩え ‥‥」



            ‥‥ 約束、し て ?
            ‥‥ この場限り の『 嘘 』でも  構わない から



        「‥‥フラ ン」

         以前(まえ)に 彼女が呟いた科白。日常に在りながら 不安な 日々。

         それは 現在(いま)も変わらない。


        「その点 アルベルトって上手いわよね‥‥ ポイント押さえてるって云う か」
         ゆぅるり と瞼を上げ、覗いた双眸が ジョーに向けられた。
        「な〜んか 悔しいのよね ‥‥いつ も 負けてる って気がする」
         何時まで経っても勝てないし、と ぷぅっと頬を膨らませる。そんな表情さえ
         可愛らしい とジョーはこっそり思う。

         それを告げること は ‥‥ まだ、出来ない けれ ど。




        「うん‥‥ 最初『 お父さん 』みたいだ、って‥‥思った」
         ジョーの科白に フランソワーズは、瞳を大きく見開いた。

        「‥‥そっ れ ‥本人に云わないほうがいいわ よ  ‥‥‥泣く から」

         云いつつ、口許を手で覆い その肩は小刻みに震えている。

        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥泣くって ‥‥それ もどうか、と‥‥」

         笑いを堪(こら)えるフランソワーズに釣られるように ジョーもまた口許に
         困ったよう な、可笑しいよう な ‥‥ 笑みを浮かべる。







        「『 マリア様 』 みたい、だった ‥‥フランソワーズ は」

        「 ‥‥‥ ぇ ? 」


        「初めて逢った時 イワンを抱いてて」



            生まれ育った教会に在った 1枚の 絵画

           『 神 』と云う 抽象的な 存在 を

            ‥‥ 信じている 訳では ない ‥‥ けれ ど



            睨むよう な 挑むよう な ‥‥ 射るよう な  真っ直ぐな 瞳

           『 絵 』の中の 彼女 は そんな瞳ではない ‥‥ のに




        「じゃぁ さしずめイワンは『 救世主(キリスト) 』?」



        「「 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 」」



        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ ゴメンナサイ 聴かなかったコトに して」
        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ うん そうする ね」




         2人して怖い考えになってしまい、無理矢理 それを頭から追い払う。

        「‥あと どれ位掛かりそう?」
        「そぅ だなぁ ‥‥あと20分位‥‥ かなぁ」
        「そぅ」
         そう云って正面を向いたフランソワーズの顔に、ほの緋(あか)い夕日 が
         静かに 影を落とす。



            綺麗な 横顔
            戦闘の時 も、つかの間の日常 も ‥‥ 何時も

            ‥‥ 何時 だって


            自分を魅了してやまない 女性(ひと)

            何時 か ‥‥ この想い が『 言葉 』に なれば ‥‥ いい





        「 ねぇ ジョー 」
        「 っえぇ!? なっ 何 フランソワーズ 」
        「‥‥ジェット どうなってると 思う‥‥?」

         ばくばくばくばくっ
         不必要に大きな音を立てる心臓 に、動揺しつつ ジョーは暫し沈黙する。



        「 ‥‥ そのまんま とか? 」
        「 ‥‥ やっぱり そう思う? 」
         はぁ と溜息を付いて、フランソワーズは頭を抱える。
        「結局 大変なのはジョーとわたしじゃない ‥‥」


        「‥‥僕 は いい、よ ‥‥フランと一緒なら 何でも」


         ジョーの科白に、フランソワーズは綻ぶように ‥‥ 淡く 微笑む。


        「‥‥    そ ぅ    ね  」



            一緒 なら
            今は ただ ‥‥


                   ただ ‥‥ それだけ で









            そして ‥‥ 運命の瞬間(とき)は やってきた。

            帰宅したジョーとフランソワーズを 真っ先に出迎えたのは ‥‥



            予想通り『 放置 』されたまま、の ジェットであった。











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‥‥39の予定だったんですけど、所詮予定は予定
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