葬列
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視界を埋め尽くす──… 「観たい、と云ったのは此れか?」 「懐かしく、ない?」 「──…ノイシュバンシュタイン城?」 防護服に 地図上…歴史上にさえ存在していたかどうかすら危ぶまれる、全景は人間の足で歩いて1時間もあれば充分な程。 此れ、と云った特徴もない筈の其処に存在していた、 眼下に拡がる広大な土壌。緩い風の吹く其処を、切り立った崖上の、遥かな高みより静かに見下ろして。 高い壁に護られ、何者にも脅かされず、凛と佇む───… 贅を尽くした、其れでいて瀟洒たる───…古城
豪奢なようで実用的 受け容れず、拒まず 周囲に張り巡らされた、塀の中は更に有刺鉄線で幾重にも囲われており、城との空間を埋めるように、拡がる… 誰が、何の為、に 何の目的、で建てたのか、皆目検討も付かず。 ───判る、のは 炎に抱かれ、沈み往こうとしているという事、と。 纏う、 「“絵本の光景”ってこんな感じじゃない?」 「絵本…ラプンツェル?」 「どちらかと云うと、荊姫ね」 「
たった、独り 眠りについて ──彼は静かに佇む 受け容れず、拒まず 「あとは廃墟と為るのみ、か」 何処か自嘲めいた独白が、男の口から漏れる。 「でも、綺麗…」 舞い上がる砂塵に 崩れ往く刹那、さえ、此れ程迄に───… 綺麗、と云う ふわり 足許から優しい風が舞い上がり───…紅く染まった古城の周りで緩やかな軌跡を描き、意志を持つかのように包み込み、 共に 寄り添うよう、に 殉教者のよう、に 繰り拡げられる光景に思わず息を飲んだ。視界を埋め尽くす、炎の赤、と 紅く舞い上がる────… 流れる血よりも 募る 深い、深い──… 「葬列、だな」 微かな吐息と共に呟かれた 「…随分、ロマンチストなのね」 「でなきゃやってられない」 「え?」 「そうじゃなきゃ 「…………」 「…笑うな」 きんいろの髪が肩先で小刻みに震えている。 覆った口許から漏れる、笑い声。 「独逸人ってお堅いだけじゃないのね」 「…どういう意味だ」 「さぁ?」 困ったような 冷たい手が、髪に触れ───… 深い 花舞が 風景が 故郷のよう、な 刹那い安堵感を齎して お互いの中に視る己が 無くした、 鼓動が、重なる 「…付いてた」 呟いて差し出された指先を彩る、花弁。白い指が其れを受け取った事を確認すると、小さく頷き踵を返した。 フランソワーズは無言で、受け取った其れを暫し
───何時か… 「葬列、か」 眼下に拡がる光景に想いを馳せる。
この躯が歩みを止める刹那 「なーんて、其れこそ 苦笑いを1つ浮かべて。 密着させていた人差し指と中指を僅かに離す。爪より朱い花弁は、熱風に煽られ、舞い上がり、永遠にその 溶けた紅が…いや、燃え盛る 熱く 熱く 鮮やかに 艶やかに 全て越えて
「…また、いつか」 見送った花弁、を そっと想い描いて。 フランソワーズは、埋め尽くされた紅に背を向けた。 |
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