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(あか)



(あか)



(あか)










視界を埋め尽くす──…(あか)
























「観たい、と云ったのは此れか?」

「懐かしく、ない?」


──…ノイシュバンシュタイン城?」



防護服に()を包んだまま、降り立ったのは、存在しない筈、の、レーダーに映し出された、名も知らぬ小さな島。
地図上…歴史上にさえ存在していたかどうかすら危ぶまれる、全景は人間の足で歩いて1時間もあれば充分な程。
此れ、と云った特徴もない筈の其処に存在していた、人工建造物(たてもの)

眼下に拡がる広大な土壌。緩い風の吹く其処を、切り立った崖上の、遥かな高みより静かに見下ろして。
高い壁に護られ、何者にも脅かされず、凛と佇む───…


贅を尽くした、其れでいて瀟洒たる───…古城












豪奢なようで実用的

受け容れず、拒まず
















周囲に張り巡らされた、塀の中は更に有刺鉄線で幾重にも囲われており、城との空間を埋めるように、拡がる…天鵞絨(ビロード)
誰が、何の為、に 何の目的、で建てたのか、皆目検討も付かず。

───判る、のは

炎に抱かれ、沈み往こうとしているという事、と。
纏う、故郷(ヨーロッパ)の気配───…











「“絵本の光景”ってこんな感じじゃない?」

「絵本…ラプンツェル?」

「どちらかと云うと、荊姫ね」

Sleeping Beauty(いばらひめ)?」












たった、独り











眠りについて

時間(とき)を越えた






















──彼は静かに佇む

受け容れず、拒まず






















「あとは廃墟と為るのみ、か」


何処か自嘲めいた独白が、男の口から漏れる。


「でも、綺麗…」


舞い上がる砂塵に(なぶ)られる金糸、を片手で押さえながらフランソワーズは小さく呟く。
崩れ往く刹那、さえ、此れ程迄に───…
















奪われる




















綺麗、と云う科白(ことば)に呼応するように。



ふわり

足許から優しい風が舞い上がり───…紅く染まった古城の周りで緩やかな軌跡を描き、意志を持つかのように包み込み、
共に(そら)へと舞い上がる。



守護す(まも)るよう、に

寄り添うよう、に






殉教者のよう、に










繰り拡げられる光景に思わず息を飲んだ。視界を埋め尽くす、炎の赤、と 紅く舞い上がる────…


















ベルベットローズ






















深紅(あか)



深紅(あか)



深紅(あか)





流れる血よりも



募る情熱(おもい)よりも




















深い、深い──…(あか)























「葬列、だな」


微かな吐息と共に呟かれた科白(ことば)、は。


「…随分、ロマンチストなのね」

「でなきゃやってられない」

「え?」

「そうじゃなきゃ防護服なんて着ていられない(こんな格好出来ない)

「…………」























「…笑うな」


きんいろの髪が肩先で小刻みに震えている。
覆った口許から漏れる、笑い声。


「独逸人ってお堅いだけじゃないのね」

「…どういう意味だ」

「さぁ?」

困ったような表情(かお)、の アルベルトの腕がフランソワーズへと伸ばされる。
冷たい手が、髪に触れ───…






深い(あか)



花舞が

風景が





故郷のよう、な
刹那い安堵感を齎して











瞳が、合う












お互いの中に視る己が過去(きおく)











無くした、愛情(あい)

無くした、願望(ゆめ)


















鼓動が、重なる





















呼吸(いき)が、止まる























「…付いてた」


呟いて差し出された指先を彩る、花弁。白い指が其れを受け取った事を確認すると、小さく頷き踵を返した。
フランソワーズは無言で、受け取った其れを暫し凝視(みつ)めた後、瞳を閉じ、そっと───…唇を寄せた。















───何時か…













「葬列、か」


眼下に拡がる光景に想いを馳せる。


















この躯が歩みを止める刹那

薔薇(はな)だけに見送られるなら



















「なーんて、其れこそ理想主義(ロマンチスト)、か」




苦笑いを1つ浮かべて。
密着させていた人差し指と中指を僅かに離す。爪より朱い花弁は、熱風に煽られ、舞い上がり、永遠にその形骸(すがた)を喪う。


溶けた紅が…いや、燃え盛る(ほのお)そのものが───…まるで












大輪の薔薇












熱く


熱く







鮮やかに


艶やかに












全て越えて























「…また、いつか」



















見送った花弁、を そっと想い描いて。


フランソワーズは、埋め尽くされた紅に背を向けた。














index



テーマは薔薇。
イメ歌はパタリロ(笑)






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