初夏
最近、とみに視線を感じる。 これがギルモア邸内であらば、人数が人数故に致し方ない、と 思うのだが。 だが、コトは、邸内に限ったことではない。 喩えば 独りで買い物をしている時。 喩えば 只 ふらりと うろついている時。 時と場合、場所に全く関係なく、付き纏う。 決して不快ではないが…───相手が 判らない故、気味が悪いこと、この上ない。 よもや、BG等では在り得ないとは思う、が。 懐かしいような、切ないような。 何時か感じた 記憶の片隅 にある───…甘い、視線。 「どうかした?アルベルト 顔色が良くない、みたい」 「…いや 何でもない」 「それならいいけど…最近、変よ ぼんやりしている事が多くて…らしくない、わ」 「俺らしくない、か……」 アルベルトはフランソワーズに気付かれないように、そっと溜息を吐く。 聡い彼女のこと、気付かれては色々と面倒だ。───…もれなく付いてくるオプション、が。 『───…ト…』 ────…? 「呼んだか?フランソワーズ」 「いいえ?わたしは何も」 そう云いながら、アルベルトの正面を陣取るフランソワーズは、雑誌へと視線を戻す。 確かに…呼ばれた。 ───誰、に? 何処か甘やかな 艶やかな 声。 爽やかな葉ずれの音 鳥達のさえずり 差し込む温かな日差し 記憶の片隅のそれと同じ───… ───! 振り返った先には、一本の葉桜。 緑色溢れる中、ぽつん、と 花がひとつ。 出逢えた、唯一の存在 『───ル、ト…─』 耳朶を打つ、声。重なる、記憶。 ───ヒ、ルダ…!? 聴こえる筈のない 声 『いま───…』 聴こえる筈のない 幻影、か 夢現、か 其れとも───… 『しあわ、せ──…?』 何処までも優しい 何処までも真摯な 何処までも愛しい ───…科白 「───…判らない」 君が居ない この 幸せ、と 呼ぶには あまり、にも──────…… 幻影の彼女、は 密やかに、微笑む。 薔薇色の 頬 柔らかな 髪 凛とした 瞳 涼やかな 声 ───生前と寸分違わぬ、艶やかな姿、で。 『そ、う──…』 幸せになれる筈がない 資格すら放棄した自分 忘れる筈も 忘れられる筈 も ない。 忘れられる訳、が───… 全ての始まり で 全ての終わり で───…!
『人間、は …忘れる為に 生きている、か、ら』 『忘れなけれ、ば… 生きて いけない、か、ら』 ───ヒルダ 俺 はっ… 『忘れ、て…?で も 時々──…想い出し、て… わた、し は……』 「ヒルダ…?」 『わたし達、は いつ、も…』 消えゆく彼女に寄り添う もう1つの、影。 見憶えのある、影───その、顔、は 陰惨な歴史で埋め尽された地下帝国、で 信念を貫いて疾け抜けた、凛々しくも儚い、少女。 佇む 只─────…… 救いたかった 救えなかった 血塗れて 尚、色艶やかに 焦がれてやまぬ、愛しい 懐かしい影は、音も無く、その輪郭を喪ってゆく。 「アルベルト!?」 「…ぇ?」 「あなた…泣いて る、わよ…」 フランソワーズが心配そうに、アルベルトの表情を覗き込む。 ───…夢 を 視ていた、の か…? 「大丈夫 …此処に居る、から…」 静かに、静かに 囁くような、微かな声、で 舞い落ちる、 流れ落つ涙をそのまま、に。 アルベルトは、フランソワーズを腕の中に抱き込んだ。 「済まない…今だけ」 「──…ん」 風が吹く。 薄紅の花びらを連れて。 抱き締めた肩越しに 眺めた空は、酷く晴れやかで。 ───いつか 愛しい女性の願い、が 許容の言葉をくれる人の優しさ、が 昇華されればいい 高く、高く 澄み渡った この空の如く…─── 抱き締めた躯を掠めるように舞う、花びら 風に舞い、葉桜に飲み込まれ…───大気に熔けた。 |
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