誕生日には ‥‥




        「誕生日 誕生日 誕生日 ‥‥」


         ギルモア博士はココの処、呪文のようにその『 言葉 』を繰り返す。
         もうすぐ5月16日。009 こと 島村ジョーの誕生日 である。

         それが嬉しいことなのか、そうでないことなのか、彼に知る術もなく‥‥。
        「どうしたもんかのぅ ‥イワン」



         タイミング良く『 昼の時間 』に入っていたイワンは ふわぁぁ〜 と、
         赤児らしい可愛らしい欠伸をしながら精神感応(テレパシー)で応えて来る。
        “じょーノコトダカラ『 皆ノ気持チガ嬉シイ 』ッテ云ウンジャナイカナァ”

        「‥‥そう じゃろうなぁ ‥‥」

         ギルモア博士は盛大な溜息を付く。我が子同然に可愛がっている彼のこと、
         本当に『 喜んで貰える 』モノを贈りたいと思うのが『 親心 』 で。

        “『 本当ニ喜ンデ貰ウ 』ノナラ、ヤッパリ『 ふらんそわーず 』ダロウネ”
        「一夜のアバンチュール とか?」
         何時の間にやら湧いて出たジェットがひょっこり顔を出す ‥‥‥ 。

         げしょっ

        「キサマと一緒にするな」
         鋼鉄の手で容赦なく 頭部に手刀を叩き込む『 死神 』。
        「え〜オレ等、健全な『 男の子 』だぜ〜?仕方ねぇだろ、そういう欲求って」
        「節操なしの『 誰か 』と一緒にするな」
        「 ‥‥誰か って『 誰 』だよっ!」
        「自覚がないとは重症だな 博士に精密検査をして貰え、『 頭の中 』をな」





        「ねぇ ジョー もうすぐあなたの誕生日 よね?何か欲しいもの ある‥‥?」
        「『欲しい モノ?』」
         フランソワーズが心持ち頬を紅く染めながら、ジョーに訊いてくる。
        「本当は本人に訊くのはルール違反だと思うんだけど ‥‥ あなたの好みが
         その ‥‥ イマイチ良く判らなくて ‥‥」
        「僕が欲しい モノ ‥‥‥」
         そう云ったきり、ジョーは暫し黙り込んだ。その様子を、フランソワーズは
         固唾を呑んで 見守っている。

        「 イワンを1日貸してくれない かなぁ ?」
        「‥‥‥‥‥‥‥ ぇ イワン‥‥?それで いいの ?」
        「 うん それで充分 だから」
         ふわり と微笑むジョーの笑顔にそれ以上何も云えないフランソワーズ。
        「‥‥判ったわ わたしからイワンに話してみるわね」
        「うん ありがとう ‥‥ フランソワーズ」


         ‥‥ しかし、何故に『 イワン 』なのか ‥‥イマイチ、ジョーの心理が
         理解し難い フランソワーズであった。




         そうして5月16日。ジョーの誕生日当日 である。
        「それじゃ 行って来ます」
         ジョーは嬉々として、イワンを連れ 家を出て行った。
         残されたのは、ギルモア博士、フランソワーズ、アルベルト、ジェット。


         ‥‥ 何時もの面々で ある。


        「‥‥何を考えているんだ?アイツは」
        「 博士 ‥‥ ジョーの機能か何か『 追加 』しました‥‥?」
        「いや、ワシは何もしとらんが」
        「‥‥やっぱり『 煩悩まみれ 』はお前だけだな ジェット」
        「余計なお世話だぁっ!!!」




         その頃のジョーは と云うと。
         ギルモア邸の屋根の上で、イワンと一緒に『 日向ぼっこ 』をしていた。
        “じょー‥‥ ボクハ君ガ判ラナクナッテキタョ ‥‥”
         その科白(ことば)にジョーはくすくす と笑う。


        「読めない『 行動 』を取れば 皆が心配してくれるだろう?」


        “‥‥ 喩(たと)エバ ふらんそわーず トカ? ”

        「 そう 喩(たと)えば フランソワーズ とか 」


         そう云ってまたくすくす と笑う。その笑顔は何時もの憂いを秘めたソレとは
         違い、‥‥ 本当に、心底 嬉しそうな『 笑顔 』。

        「心配するのは 判っているんだけど ね、でも‥ やっぱり嬉しい から」


            僕 を ‥‥‥

            僕だけを 見てくれる 瞬間


        “‥‥ハッキリ云エバ イイノニ”
        「‥‥それが出来れば 苦労しないよ ‥‥困らせたくないし ね」
        “云ッテ ミナキャ 判ラナイ ヨ ‥‥ ?”

        「いいんだ これで」
         イワンを抱っこするのも好きだしね、と一言添えて。
        “ぼくハ、ふらんガ良イケド”
        「僕からすれば イワンも『 ふわふわ 』だよ」
         満面の笑みで云い切るジョーにイワンは、それ以上何も云わなかった。
         ‥‥ 無言のイワンの心理は微妙に複雑であった。


        “ ‥‥ 仕方ナイナァ ‥‥ ”


        「 ‥‥ え 何か 云った? 」
         イワンの前髪に隠された瞳が一瞬、キラリと光る。
         瞬間、入れ替わるように現れた ‥‥ 『 フランソワーズ 』。


        「 ‥‥ ぇ?えぇっ!? ジョーぉ? 」


         入れ替わったのだから、当然 フランソワーズはジョーの腕の中 で。


        “今日ダケハ 貸シテアゲルヨ ‥‥ 丁重ニ扱ッテヨネッ”


         イワンのテレパシーだけが脳裏に響く。






         自分の膝の上で混乱するフランソワーズを、ジョーはゆぅるりと抱き締める。


        「えっ あっ あの ‥‥ ジョー ‥‥ ??」









         ジョーは、淡い微笑を浮かべ ‥‥‥ 彼女の頬に甘いキスを落とした。














        「‥‥で、何でてめぇがココにいやがる」
        “何処ニ居ヨウトぼくノ勝手ダヨ”
        「‥‥ フランが居なくて か?」
        “ ふらんそわーずノ動向 ナンテ君ニハ関係ナイダロウ? 全ッ然 ”
        『 全然 』を強調する辺りが、イワンがイワンたる所以である。
         アルベルトは1と2の不毛な遣り取りを聴きつつ、無言で 且つ さり気なく
         その場を立ち去ろうとした。
        「ちょい待ち」
         こっそり 立ち去ろうとするアルベルトを、ジェットが思いっきり引き留める。
        「何故 逃げるんだよ オッサン」
        「‥‥逃げ る ?」
        「アンタは気にならねぇのか?‥‥フラン」
         アルベルトはジェットを穴が空くほど見つめ、盛大な溜息をついた。
         そして、無言で天井を指差す。
        「‥‥お前の瞳(め)でも 視える だろう?」
        「‥‥‥‥‥‥‥???」
        「‥‥イワン 悪いが この鳥頭に『 上 』の状況を視せてやってくれ」
        “ 了解 ”
         云うが早いか、ジェットの人工頭脳に直接流れ込んでくる『 映像 』。


         フランソワーズは頬を桜色に染め、ジョーの腕の中に納まっていた ‥‥‥ 。


         アルベルトは自前の『 センサー・アイ 』で確認出来る ‥‥ が、
         そんな野暮なコトをする性質では ない。
        『 ジョーの誕生日 』『 フランソワーズが消えた 』と成れば、結論はほぼ1つ
         だからである。それは容易に想像出来るコトである ‥‥ 約1名を除いて。


        「何てことしやがるっ!イ〜ワ〜ン〜ゥゥゥッ!!!」


        「あれは ‥‥パフォーマンスか?それとも 本気か‥‥?」
        “ 本気ニ5000点 ”
        「‥‥あの鳥頭はっ!‥‥って、何処で憶えたんだ ソレ」
        “こずみ博士ノ家ノ再放送”


            ‥‥ さも在りなん という処 か


        「‥‥賭けにならんな 俺も同じだ 『 本気 』に5000点」
        “‥‥ ツマンナイ”


            ‥‥ 厭なガキだ


        “悪カッタネ 厭ナ がき デ”
        「ま、それ位でないと 俺達の『 頭脳 』は務まらんさ」

        “マァネ”






         ‥‥ 一体 褒めているのか いないのか ‥‥


         それは本人達にしか ‥‥ 判らないコトである。












BACK

キリリク100hit しるふぃ様へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送