天使の王冠 . 気化熱を孕んだ風が足許から吹き上げる。 埃にまみれた頬を無造作に拭い。 掻く筈のない汗で濡れた背中に、防護服が張り付く不快感に眉を 既に瓦礫と成り果てた、文明の象徴であった筈の建造群。 曇天の空と同化したかのような色を ざり 自分以外が立てる、砂を 「厭な風だな」 「…えぇ」 瞳を細めて見遣るその方角に、拡がるのは、何処までも同じ、鉛色─── 寄り添うように歩み寄ったアルベルトは、傍らの、 西洋人の割に肉付きの薄い ─── アルベルトは右手の平を暫し見つめた後、握り締めた。 「暗いこと、考えてるでしょう」 視線は変えぬまま、呟かれる、 「…よく判ったな」 「 「………」 「この空の色、みたいに」 随分な云われ様…なのだろうが、当たっているだけに言い訳のしようも無く。 「ま、気持ちは判るけど───…こうやって時間って流れるんだろうな、って考えると」 「何かあったか?」 「何も無い、事なんて無いと思うけど?」 「哲学か?」 「折角のanniversaireなのに、灰色一色の世界だし」 「…あぁ」
仏語で Anniversaire
独語では Geburtstag
英語なら Birthday 忘れ得ぬ
今日だけは、と ダイエットも忘れて 頬張ったケーキ
平凡な 華やいだ、笑い声 寄り道しながら 冷やかした、雑貨屋
嘘のように 綺麗な幸せ
遠い
想い出せば口許に微笑が浮かぶのに 瞼の奥が熱くなるのは、何故だろう
「おい、そこの黄昏てるオッサン」 「…それは酷い、と、思う…」 ───場の空気を何処までも無視した、能天気な声が、後方から突き刺さる。 引き 傍らの赤い髪の青年を睨みつける。 「コイツも黄昏ててさー、暗いのなんのって」 「…ジェットが無駄に動き廻るか───…」 「で、こっちは何でだ?」 人の話も訊かないし、と、小さな反論など聴く耳持たず。 「誕生日なんだと」 「本当!?」 「へ〜ぇ?幾つになったかは訊かないでやるよ」 「煩いわよ、同年代」 「うわ、可愛くねぇ」 「ぇ、可愛いよ?」 「素で云うなっ、この天然!」 「…緊張感無いな、お前等…」 雲を切り裂くように、刺し込む、一縷の光の 伸びた チッ 伝わる、微かな空気震動 掠めた直後、頬に感じた───違和感 流れる血 「003!」 響く、怒号 刹那、世界は、黒一色に塗り換えられる。 ジョーは、フランソワーズは抱きかかえ、瓦礫と化した建物の影へ身を翻した。 光の方向へ打ち込まれるマシンガン 吹き上がる風を味方に付け、舞い上がるマフラー
盾となるように 背中に感じる、暖かな掌
護るように がくん、と、前のめりになるような振動に、フランソワーズの 頭上から聞こえた、安堵が混ざった吐息に、安全圏に入ったのだと判った。 抱えられた恰好のまま、労わるように、優しく地面に下ろされる。 ざらりとした砂と、所々に生えている雑草の冷たさが、防護服に染み込んでゆくような感触は、汗をかいた 緩やかに開いた瞳は 一緒に居た自分以外の3名に、何の変化も見られない フランソワーズを退ける為に造られたものなのだろう。 『緊張感が無い』 皮肉にもそう告げられた直後、の───…。 やり場のない苛立ちに、フランソワーズは自然と眉根を寄せ、人知れず ───不意、に。 頬に触れる甘い感触。流れた血を拭ってゆく、丸い指先。 フランソワーズが顔を上げる、と───…
視えない筈の しかし確かに映る
向けられた 真摯、な 「誕生日、おめでとう───…フランソワーズ」
甘く囁く声、が 「プレゼント、考えておいて」
撫で
何より有弁に 本心を告げる 『ありがとう』 生まれてきてくれて ドォンッ 轟音 震動 爆風 揺らぐ大気 鼻に付く、金属の焦げる 「チィッ!まだ居やがった」 踵のエンジン音を響かせ、レイガンを構えたまま、ジェットはジョーの傍らに着地する。 その反対側に飛び込んでくる、アルベルト。 未だ警戒の解かれぬ、右手のマシンガンが、この戦いが現在進行形である 座り込んだままのフランソワーズに瞳をやり───…眉間に皺を寄せ、厳しい 「さっきの光で瞳をやられたか…」 「───…ごめんなさい…」 「ま、何とかなるんじゃねぇ?あいつ等、数は居るけど弱ぇしよ」 「阿呆。自信過剰は命取りになるぞ」 「誰がアホだ、誰がっ!」 呑気、とも、長閑、とも取れる程の、欠片もない緊張感。其れでも、フランソワーズの心を晴らすには充分で。 立ち込めていた胸の暗雲に、舞い込む一陣の
空気が、変わる
雲間から、零れた 「晴れてきた」 未だ己を抱き寄せたままの彼の人、の───… 心地良い声に導かるように、その方向へと仰ぎ見て、未だ焦点の合わぬであろう 在ったのは。
頭上に煌く、 天使の梯子、と称される、雲間から差し込む陽光は、長く尾を引き、地上へと舞い降りる。 栗色の髪の端を掠めてゆく、幾筋もの光の欠片を纏い、まるで 「フラン…?」 喩え、 ───それは 瞳を射す閃光より眩しい 「プレゼント… その 暫しの沈黙の 人の悪そうな笑みを浮かべた。 判らず、ぱちくり、と、 脱力させていた いるである敵へ視線を投げると、照準を合わせるように、レイガンを構え───…云い放つ。 望むは只ひとつ
「勝利を」 明けぬ夜など無いように この手で、掴み取る為に |
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