下克上罰ゲーム




        「 っ っつ ‥‥ 」


         切なげな、甘い吐息が彼女の口から毀(こぼ)れ落ちる。



        「 だっ 駄目 ‥‥ジェッ ト ッ 」



         そう云いつつ 上目遣いに見つめてくる 澄んだ蒼の瞳 は 心なしか、潤んで。
         そんなフランソワーズの表情(かお)をジェットは 満足気に 得意げに見つめる。
         間髪入れずに 与えられる ‥‥ 降り注ぐような キスの 嵐。

         髪 に  額 に  こめかみ に ‥‥ 瞼 に



        「 みっ 皆が ‥‥視てる、し  っ の‥‥ 」



         科白(ことば)も 声音(こえ)も 掠れて ‥‥ 途切れがち に なり、
         その 白く滑らかな磁器のような手 は、『 何か 』に 絶えるよう に固く
         握り締められていた。


         微かに伏せられた瞼から睫毛にかけて 柔らかな影が ‥‥ 静かに落ち、
         顔に何とも云えない 微妙な『 陰影 』を 付けてゆく。
         微妙 な、その陰影が フランソワーズの造形美を更に 際立たせる。




         びくっ!

         フランソワーズの肩が 目に見えて跳ね上がった。 ‥‥ ジェットが
         耳朶、に 舌を 這わせたせい である。
         その上、吐息混じりの ‥‥ 熱く湿気を帯びた息を 吹き掛けてくるのだ。


         ‥‥ フランソワーズとジェットの行動、その一部始終を ジョー・アルベルト・
         ピュンマ・グレート の4名、が まじまじ と 凝視している。


         ジョーは多少 ‥‥ かなり、不機嫌なオーラを漂わせてはいたが ‥‥ 。



        「 も ぅ ‥‥ 止めて、よ ‥‥ ジェット 」
        「ダーメ‥‥『 そういうルール 』だった ろ?」
        「に したって 限度 って モノ が‥‥」



        「  ぇ ねぇ ‥ お ねがっ  ‥‥ ぃ ‥‥ っ  」


         頬を 薄桃色に染め上げ、懇願する 瞳、甘えた 声。

         ゲーム の筈、が 何時しか ジェットは『 本気 』で なけなしの理性を
         跡形なく 蹴り飛ばし ‥‥ 掛けた、瞬間




        「 限界! 」




         一際、怒りを含んだソプラノの声が上がると 同時 に、ジェットの躯(からだ)は
         先程まで存在していた場所とは 掛け離れた処 まで ‥‥ 吹き飛ばされていた。


        「ってっ てめぇっ ‥今 グー で殴っただろう!!」
        「当たり前でしょっ! チョキで殴ったって 効果ないじゃないっ!!」









         ‥‥ そもそも。

         発端は何時もの如く、アルコールが程よく体内を駆け巡っている頃のこと。
         どういう話の流れかは不明であるが、『 皆でカードゲームをしよう 』と云う事に。
         最下位には 当然『 罰ゲーム 』という話をしていた処 ‥‥

        「普通の『 罰ゲーム 』では つまらない」

         と、のたまった人間(ひと)が居たのである。
         そこで 今回取り入れられたのが『 下克上罰ゲーム 』。罰ゲーム、とは本来 勝負に
         負けたモノに課せられる『 試練 』であるが、そこは『 下克上ルール 』。
         ‥‥ つまり、


        『 勝者が敗者の云うコトを聞かなければならない 』


         と云う代物であった。

         通常戦闘時、当然ながら『 勝つ 』コトを前提にプランを立ててゆく 彼等、
         ーー ゼロゼロナンバーズ、であったが わざと『 負ける 』となると、これが
         案外 難しく ‥‥

         画して『 勝者=フランソワーズ、敗者=ジェット 』の図式が完成したのである。






        「あ〜 もぉ気持ち悪いぃぃっ!! 顔洗ってくるっ」
         フランソワーズは、目尻に涙を浮かべたまま ばたばた とリビングを後にする。


        「‥‥3分」
         グレートが時計を見ながら、ぽつり と呟いた。

        「『 3分 』に賭けてたのは 誰だったっけ?」
        「あ、アルベルト‥ と、ジョー だね」
         ピュンマが何やら 紙片を見つめつつ グレートの訊いに応える。
         ‥‥ ちなみにお題は『 キス 』であった。
         だが、数名に拠る 命懸けの『 猛反対 』に遭い

        『 触れていいのは首より上、但し 唇は却下 』

         という条件が、もれなく 付けられたのである。しかも勝者以外の面々 は
         それを 更に『 賭け 』て遊んでいたのである。


        「しかし マドモアゼルも案外 根性がないなぁ」
        「‥‥そういう問題 でもない と思うけど ね」
        「フランソワーズぅ〜‥‥」
         様々な想いが飛び交う中、アルベルトだけが 静かにその場を立ち去った。














        「 ‥‥そーんなコト してたの ねぇ ‥‥あなた達 」


         言葉尻は柔らかく、だが確実に気温を下げたであろう 声が、見えざる矢となって
         リビングの男性軍を攻撃し、確実に心臓を抉(えぐ)ってゆく。



              ‥‥‥ 女王様 再降臨



         そんな連語が 誰かの脳裏をよぎり ‥‥ 背中全面に厭な汗をかく面々。



        “ 逃げても 無駄 よ ‥‥アルベルト ”



         避難していた筈のアルベルトにも 容赦ない科白(ことば)が浴びせられる。
         しかも ボリューム最大 の、脳波通信に 拠って。









         ‥‥ 直後。

         ギルモア邸から この世のモノとは思えない悲鳴が 聴こえたとか 聴こえないとか ‥‥












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