縮図 〜下克上罰ゲーム 3〜














         「‥‥もう こんな生活 厭っ!実家に帰らせて頂きますっ!」
         女は 自分と変わらぬ身の丈の男に背を向け、駆け出す。
         男は、走り去る女の背中、を 半ば 呆然とした面持ちで、見つめること しか、出来 ず。


         「って‥‥俺達 お前の実家で同居中、だろ‥‥?」


         ぽつり と独り呟くも、それを聴いていたのは 彼を包む風だけ、で────────






         「何なんだっ 一体!!!!!」



         走り去る女‥‥もとい、ジェットは額に青筋を立て、ふるふる と 握りコブシを怒りに震わせている。
         「何って、今更」
         それに応えたのは 男────もとい、変身した グレート。




         「「「「負けたから」」」」















         ────恒例、と云えば 『恒例』。
         ゼロゼロナンバーズは 飽きもせず、カードゲームに興じている。
         相変わらず『下克上ルール』健在のゲームの中、3回目 ともなれば、試合運びも楽になる。

         そんな中、彼らはある『事実』に気が付いた。

         『1位と最下位にならないほうが数倍楽しめる』と 云うこと に────。



         ────故、に。


         楽になった筈の試合運びは、実に苛烈を極め────結果、出来上がった

         『勝者=ジェット、敗者=グレート』

         という 図式。
         『敗者』────結果的な『勝者』グレートのお題は、彼らしく『芝居の相手』なのだ、が────




         「何でオレが女役なんだ!?普通、こんなデカイ女 居ねぇだろ」




         口を尖らせて愚痴を云う ジェット、に ゲーム参加者の1人 フランソワーズは 涼しげな声音(こえ)で
         返事を寄越す。

         「あら スーパーモデルなら、あなたくらいの背じゃない」
         「モデル、は『普通』じゃないだろっ」
         「‥‥それって 偏見?それ とも、女性蔑視?」
         「だ〜か〜ら〜っ!!オレが云ってんのは 一般的意見、だろっ!?」
         ジェットの科白(ことば)に フランソワーズの愁眉が微かに 跳ね上がった。



         「‥‥それ、は わたしが『普通じゃない』って云ってる、の かし ら?」









         「‥‥それより、も 『科白がベタ過ぎ』ってほうが 僕は気になるんだけど」
         溜息交じりにピュンマが呟く。
         「そんなに ベタ か?」
         心外だ、と云わんばかり にグレートが眉を顰める。
         「ジェットに合わせて 我輩、日本人好みのドラマにしてみたんだがな〜」
         「‥‥ジェット、は アメリカ人 だと 思うんだ、けど」
         「確かに、あの オーバーリアクションはアメリカ人っぽい、が‥‥『スマキ』なんて使うか?」

         「‥‥それ、僕に訊いてる?‥‥‥もしかして」
         ジョーが心持ち、上目遣いにグレートを睨む。




         「ジョーが 1番ジェットと仲が良いから、じゃない?」




         くすくす と笑いながら、ピュンマがジョーに訊う。
         「‥‥好き で 仲が良い訳、じゃ ない‥‥けどっ!」
         不貞腐れたよう、に ふいっ と逸らした 視線の先、には─────────




              ─────────なるほど





         視線の先、には──────────────────フランソワーズの姿。












         「あー云えば、すーぐ色々云うよな〜 フランって‥‥可愛くねぇ、の」
         「どぉせ 可愛くないですっ!別に ジェットに『可愛い』なんて云われたく ない、けど!」
         「小うるせぇ女‥‥襲う ぞ、てめぇ」

         その科白に フランソワーズは気色ばみ、ジョーの肩は、ぴくり と 反応、する。



         「やれるもんならやってみれば?その代わり‥‥‥泣く、わよ?」
         「はぁっ?!何 カワイイ事 抜かしてやがる」












         「若者は勇気があるねぇ」
         「同感」
         「??何 で?」
         瞳(め)を見開いて訊いてくるジョー、の その様子にピュンマは 苦笑とも微笑とも付かぬ 笑み を 零す。


         「ジョーなら‥‥どうする?ジェットがフランソワーズを虐めたら」




         「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥加速装置で助走して跳び膝蹴り」




         「だよね?それに‥‥」
         「もれなく ミサイルも付いてくる だろう、し」
         「処により、サイコキネシスのオプション付き」
         「‥‥‥何故、そこで 俺が出る?」

         「誰も『アルベルト』なんて名指しは してない、けど」




         「‥‥‥‥‥‥‥」




         至極、的を得た科白 に アルベルトはそれ以上 云う事もなく。









         「もぅ 厭!     ぅ‥‥」

         聴こえた、のは ほんの────本当に 微かな 涙を帯びた声──────なのだ、が。
         次の瞬間、其処にジョーの姿は なく─────代わりに居るのは、小さな背中、の‥‥女性、と。

         お約束の如く、部屋の隅に鎮座する、ジェットの姿。


         ────ジョー の、宣言通り 『跳び膝蹴り』を喰らった らしい。




         「僕が相手になってやるっ!!」




              ─────────使う処 違うし!




         誰もがその胸中で ツッコミを入れたこと は 間違いない。




         「‥‥テメェ いーい度胸、じゃねぇ、か‥‥!」















         「‥‥で、どっちに賭ける?」
         「‥‥全員、同じほう に賭けるなら『賭け』の意味がない、だろう」
         「‥‥だよね やっぱり皆 ジョー に賭けるだろう し」


         「じゃ わたし、ジェットに賭けるわね」


         微笑みつつ フランソワーズが事もなげに口にした その科白 は。




         「負けが判った勝負を する、のか?」
         アルベルトが不審気に呟く。
         「あら それって ジェットに失礼、じゃない?」
         「俺は 事実を述べているだけ、だ」
         「ま いいけど、ね ‥‥賭けは成立、よね?」


         「マドモアゼルが そう仰せられるのなら」


         グレート、の 相変わらずの 言葉遣いに フランソワーズは 声高々に宣言する。









         「ジョーぉ〜 適当な処、で 負けてあげてね〜っ!」




              ─────────は い?




         「え〜っ!?何でっ!?」
         「わたし 今 ジェットの勝ちに賭けてる、の」
         「酷いよ フランソワーズぅ」
         「勝ったら掛け金で一緒に出掛けられる、でしょ ぉ?‥‥ お・ね・が・い」




         「‥‥判った!力一杯 負けてくる、から 待ってて!!」




              ─────────それは 違うから!!‥‥ もとい!

              ─────────いいのか?ジョーッ 男のプライド、は 何処へっ!?






         「それって『八百長』ってヤツ じゃない かな‥‥」
         「あら 『ヤオチョウ』って何?‥‥日本語って 難しいから 判らない、わ」
         「‥‥翻訳機があるだろう」
         「何か云った?」
         「‥‥‥‥‥‥‥‥‥空耳、じゃ ない、のか?」
         「ぁ やっぱり?」

         うふふっ と可愛らしい笑い声を上げる フランソワーズの頭上に さんぜん と輝く『王冠』が
         見える、のは最早、『気のせい』や『まぼろし』では────ないだろう。




              ─────────やはり 最強‥‥






         既に ジョーに『男のプライド云々』を云う資格はない と いう事実 と、日常生活に於ける力関係 の
         縮図を見た気がした アルベルト・ハインリヒ───────哀愁漂う 三十路、で あった。












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久々の更新がこれってどーよ‥‥
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