瞳の中の聖女 3
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夢を見た。

小さな女の子が座り込んで泣いている。
色素の薄い長い髪が、足許で、まるで包み込むかの様、に 幾重にも幾重にもとぐろを巻いて。
彼が少女に近付くと、少女の背丈よりも長いであろう髪が意思を持つかのように緩やかに解かれ、扇状に拡がる。


「どうしたの?」


彼は少女に訊う。
少女は彼に視線を合わせる事無く…小さく、呟く。




「誰も居ない」

「寂しいの?」

「…判んない」









次の瞬間、世界は真っ黒になる。

浮かび上がるは、頼りなげに揺らめく、少女の幻影(かげ)
揺れる少女の髪先をしげしげと見詰めながら、彼は、再度、少女に訊う。



「…寂しい、の?」



少女は俯いたまま───…答えない。
只、気配に乗せて伝わってくる感情、の光彩(いろ)、は。










寂しい

さみシ、ィ



人間(ひと)、は、厭




晴れの日も
雨の日も


誰かが
居ても
居なくても


人間(ひと)、は、嫌い



寒イ、ヨ

寒イ


寒イ



サムイ





サム、イ





















『………、ン』





















耳を打つ───…小さな、小さな、其れは、声音(ねがい)


「な、に?」


彼が少女に意識を傾ける。───…瞬間、足許を埋め尽くしていた髪、が、己が意思(・・・・)で、立ち上がる。
あからさまな悪意を持った(それ)は、何時か読んだ御伽話(どうわ)のように彼の躯を絡め取る。


じわり
じわり


まるで侵食するかのように、下から上へと緩やかに駆け上がる。
脛を這い上がり、両腕の自由を奪い─────…




    ───…!?




不意、に。
俯いていた少女が顔を上げた。
口端に(のぼ)るは、年齢にそぐわぬ、背筋が冷たくなる程の、凄惨な微笑(えみ)、と

強い光彩(いし)を放つ









『 瞳 』












    ───吸い込まれ、る…!?








感じたのは刹那。
眼前に拡がる風景は、次々とその姿を変えてゆく。

彼の意思とは全く『無関係』に、『無秩序』に…。





共通するのは、少女、の、色素の薄い、皮膚と髪の色。
俯きがちな、仄見える、微かな…表情
諦めたよう、に、泣いている、よう、に、力無く項垂れた、肩。


どの場面に於いても









ひと、り



只、独り





立ち尽くす













本来、傍に居るであろう『保護者(おとな)』の姿は無く。

有るのは足許の、増え続ける、無機質な石積み達。







最初は、紅い尾鰭(おひれ)の金魚

次には、黒光りする甲虫(かぶとむし)



見喪う程に小さいハムスター

鶏冠(とさか)のような頭の、黄色い鳥

覚束ぬ足取りの、垂耳(たれみみ)の仔犬








───石積み(はか)が増えてゆく度。

耳の下で切り揃えられていた髪は、両肩を覆う長さから、背中へ到達し、やがて腰に届く程の長さへと。



背中から胸を越える長さへ──…やがて腰の辺りまでたゆとう髪を靡かせ。
みるみるうちに身長が伸びてゆき、(からだ)の線が丸みを帯び、指は細く、しなやかに変化する。


幼女は少女へと其の姿を変え…────『女』になる。













フィルムの早送りを

観ているよう、に











そして───…




見慣れた 首輪
聞き慣れた鳴声(こえ)



彼等を繋ぐ、大切、な─────…





『 ベ ル 』







俯いていた少女───…(いや)、既に女性へと様変わりした、彼の人、は。

その微笑も
その瞳、も

只、只管に






綺麗


綺麗


綺麗












その科白以外、思い付かなくて。


噎せ帰る程、の 四季折々の香りの中、今迄で一等綺麗な微笑(えみ)で迎えられれば。
緩やかに伸ばされた、しなやかな指先を、彼の首に巻きつけ─────…















「…ずっと、待って、た」















────其れ、は。


彼女にとっての愛の科白(ことば)

彼にとっては全ての終幕












其処で瞳が醒めた。














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まだ続くらしいです、此れ…






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