昔語り
〜下克上罰ゲーム 4〜
「あれ」
「あら」
「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」
期せずして 異口同音に吐き出された科白(ことば)に 他の3名────ジョー・ジェット・アルベルト・グレートは
複雑な表情(かお)、でことの成り行きを見守っている。
───胸中穏やか、でない のは 新旧加速装置組2人、面白がっている のは大人2人。
「珍しい、わね ピュンマが『負ける』なんて」
「買い被り過ぎだよ 僕だって負ける時くらい」
「‥どう云う理由(わけ)であれ 罰ゲームは受けて貰うわよ」
フランソワーズは 両手を腰に添え、口許を三日月型に綻ばせる。─────それは嬉しそう、に。
「お姫様、の 仰せの通り」
片や受けて立つ側 も、負けず劣らず 人を魅了するよう な、邪気の無い微笑を浮かべた。
「明日1日 あなたの時間、を わたしに頂戴」
「1日って‥‥24時間?」
「それでもいい、けど?」
「───‥了解」
「でね、ピュンマって────‥どういう服 が 好き、なの?」
「服?」
「あら!デートなんだもの 好みって大事よ?あなたが嫌いな格好はしたくないし」
デート、と云う単語に色めきたつ若者。その反応の速さは 条件反射、と云うより 流石『加速装置搭載』といった面持ちで。
その様子を横目で眺めながら、ピュンマは そっと溜息を付いた。
─────────懲りないなぁ
暦の上では『冬真っ盛り』であるもの、の。
実際は暖冬の為『秋』と云っても差し支えない程の陽気は 寒さが苦手なピュンマにとって、救いの神に等しく。
淡い日差し、が 柔らかなベールとなって 肌を刺激する。
「お待たせ!」
弾んだ声が後方上部から響き渡る。声のする方角に瞳(め)を向ける、と‥──────
階段から降りてくる フランソワーズ、の 姿。
躯(からだ)にフィットしたジーパン、ノースリーブニット、手にはハーフコートとハンドバック。
どちらかと云うと『ラフ』に分類される、であろう 格好────
ピュンマ、は ぽかん と‥ 一瞬、見惚れた。
「珍しい格好、だね」
「そう?ピュンマは───‥あんまり着飾るのって、好きじゃない と思った、から」
────昨晩のコト。
フランソワーズの『どんな服が好きか』と訊い、に『フランソワーズが着る物なら何でも好きだよ』と、外見年齢年少組を
憤死させるような科白、を さらり と吐き、『訊き甲斐のない人ね』と、フランソワーズの怒りを軽く 買った。
結果、半強制的に『一任』と云う形になった、のだ。
「似合わない?」
「似合ってるよ」
その科白に気を良くした のか、フランソワーズは満面の笑みで返事を寄越した。
「今日1日 エスコート宜しく、ね」
季節の移り変わり
冬支度が済んだ ショーウィンドウのディスプレイ
遠慮がちに降り注ぐ 弱い日差し
傍らに佇む‥‥──── 少女
小さなカフェの窓際の席を陣取りながら、ピュンマは大きく溜息を付いて テーブルに突っ伏す。
「‥‥疲れた」
「この程度、で?」
「慣れないコトばかり、だから」
アスファルトジャングル
鉛色の箱が埋め尽くす街
「家に篭って パソコンばかりしてるから、よ」
「‥‥一応『仕事』してるんだけど」
「そ・れ・で・も!」
「───‥よくヒールの靴 で 歩ける、ね」
「気合い、よ 気合い」
怒ったよう、な 困ったよう、な‥───────何処か楽しそう、な 笑顔。‥‥が、ふと 真剣味を帯びた。
「ピュンマ‥‥わたしのこと、嫌い でしょ?」
─────────‥‥ は ?
「どうした、の 急に」
「『回答(こたえ)』になってないんですけど」
「‥‥ごめん 前後の繋がりが判らない」
「暗い表情(かお)してる」
─────────‥ ぇ ?
微かに撥ねた肩口、を フランソワーズが気付いたか否か。
「普通だと思‥‥」
其処で暫し会話が途切れた。ウェイトレスが注文したコーヒーと紅茶を掲げてきたからである。
「普通、だと云う処からして 変」
「変って‥────」
フランソワーズの容赦ない一言、にピュンマは苦笑するしかなかった。紅茶を一口啜り、満足そうに頷くフランソワーズの顔を
何となく眺める。華奢な肩の上 で、くせのある『金色』が 楽しげに踊る。
思い出すのは、改造される前の日常 と‥‥───────『初めて』出会った時のこと。
埃まみれの 紅
血の滲んだ 黄
擦り切れた 黒
そんなもの、は 正直、どうでも良かった。只─────‥‥
─────────『白人』
金の 髪
蒼い 瞳
白い 肌
それだけ、が 彼女───003、フランソワーズの第一印象。
内戦
貧困
人種差別
結び付くのは、自国での 遠い───‥遥かな 記憶
「嫌い、と云うより『苦手』だった と 思う」
───ぽつり、と。
「‥‥過去形?」
「───‥多分」
途切れ途切れに紡がれる───本音。きっと目の前の彼女(ひと)は、誤魔化せれてはくれない。
ピュンマは 微か、に 瞼を伏せた。
「思い出す、んだ─────‥昔の、こと‥」
君を 見ている、と
「フランが 悪いんじゃない、けど‥‥」
─────────そう、判ってる
知性(あたま)で 理解していて も
感情(こころ)が 麻痺したよう、に
凍って
拒んで
憎んで‥─────
『また明日』
そう云えるのが 理想(ゆめ)
そう思えるのが 希望(ゆめ)
家族皆で食卓を囲めたら
武器を持たずに眠れたら
所詮は──‥夢物語
現実は、容赦なく『夢』を叩きのめす
潰(つい)えた夢の 結末、は
人間の権利すら剥奪された───────‥‥
『 改造 』
「そればかり、が 頭を廻(めぐ)って」
─────────これじゃ、まるで
「そんな自分、が たまらなく厭、で」
─────────八つ当たり‥‥
「当たり前、じゃない そんなの」
「───── ぇ?」
「ピュンマが『そう思う』ってこと、は わたしも『そう思う』ってこと、でしょう?」
単純明快な回答
─────差し込む 希望(ひかり)
「自己嫌悪する理由、なんて ない」
無責任でも何でもない
人種の違いも
自国の内乱も
全て不可抗力
──────自ら望んだ訳ではないのだから
「『暇』だから、よ そんなこと 考えるのは!」
「────────────────────‥ はぁ?」
「人間『暇』だと ロクなこと考えないんだから」
─────────ぇーっと‥‥
「慣れない、と───‥ 結構 キツイわよね‥」
静かな 横顔。
「戦うことが日常、だったから」
視つめる 瞳。
その先に ある、のは───────
造りモノの『心』が 訊う
『お前はここに居ていいのか』と
─────────初めて、なんだ
『戦いのない日々』 は
産まれ落ちた瞬間、から
戦わざるを得ない環境だった から────‥‥
「それだけ 自分に目を向ける『余裕』が出来たって こと」
いいんじゃない?と、フランソワーズは 微笑う。
「自分のため、に 使う時間が有っても─────‥‥」
─────────国も 政治、も 関係なく
自分自身のため、だけ に
「──‥そうだね」
「少しくらい 我が侭、云って」
「──‥努力する」
「もっと 甘えて」
「──‥う ‥‥ えぇっ!?」
─────────何故、そういう発想になるのかな
「それは ちょっと‥‥多分、無理」
「じゃぁ わたしの我が侭、訊いて」
─────────だから、何でっ‥‥
「わたしを『白人』なんて 括(くく)りに、入れないで」
「!」
ピュンマは息を呑み、大きく瞳を見開く。
「わたし、は わたし、よ‥───それ、と『苦手』も やめて」
「‥‥内容の割、に 語気が弱いよ」
「〜〜ッ しょうがない、でしょっ」
頬を桜色に染め、つん とそっぽを向く フランソワーズの姿、に ピュンマは小さく笑みを零す。
───心からの微笑、を。
乾いた砂塵、も
溢れる 緑、も
ここにはない────‥ けれ、ど
全て昔話だねと
笑える日、まで
「大丈夫‥─────『苦手』も『過去形』だから」
─────────僕らは 生きていく
普通とは程遠い
普通、の中 で
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勿論、このまま終わる筈もなく。
やっぱオチとく?
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