不如帰 1




        『 彼は誰にでも優しいわ 』


            ‥‥ そう 『 誰 』にでも


            ‥‥ 莫迦みたい


         魔人像へテレポートする一瞬 みせた あの『 微笑み 』

         それが 決定打


            ‥‥ 知って しまった
               知りたくなかった

               知りたくなんて なかった ‥‥ のに


            夢 ‥‥ を
            夢 を みていたかった だけ


            それも                   ‥‥ 今日で 終わり




        「フランソワーズがおかしい」


         最初に『 異変 』に気付いたのは ジェット。
        「貴様の『 鼻 』以上におかしなモノなど無い」
         煙草を燻らせながら相手の特徴を衝いた 容赦のない科白(ことば)を 浴びせる
        『 死神 』 ‥‥ アルベルト・ハインリヒ。


        「違ぁぁ〜うっっ!」


         うがぁっ と歯を剥き出して、一瞬食って掛かったが、
         今日に限り早々に引き上げ、大きな溜息と共に 乱暴にソファに座り込んだ。




         それはある日の午後。
         暑くもなく寒くもなく、ブラウス1枚で過ごせそうな 快適な季節。
        「表情(かお)を見りゃ判るだろ〜がっ! ‥‥戻ってやがる」
        「‥‥戻った?」
        「あれじゃ‥‥ 脱出する前みたいじゃねぇかっ!」


            『 最後の一人 』に 出会う以前 ‥‥ B・Gに居た時 の


        「 ‥‥‥‥‥ 」
        「正直 鬱陶しいトコも有ったケドさぁ‥‥ 今よりずっと‥‥っ!」


            人間らしく て ‥‥ 女の子らしく て


         そう云ったきり 黙り込んだジェットは、ソファの上で手足を縮め、丸くなる。
         アルベルトは視線を動かし、キッチンで何やら話し込んでいる2人を眺める。


         フランソワーズ と ジョー ‥‥ を


         楽しそうに微笑い合う2人は、暖かな空気を纏う 春の日差し。

         只 ‥‥ その瞳の内側(なか)の 甘やかさ は 跡形無く なりを潜め、
        『 友人 』か『 親兄弟 』と共に在る時のような、すっきりとした表情(かお)。

         それは ‥ アルベルトや ‥‥ ジェットに向ける瞳と『 同じ 』意味。
         大切な人間に変わりはないけれど、内包される『 想い 』は全く別のモノ で。



        「良かったじゃないか」
        「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 何っだよ その含みのある云い方ぁっ」
        「‥‥‥ いや 別に?」
         口端を上げるだけ の 独特の微笑 に、ジェットは ぎりっと爪を噛んだ。


        「ちょっと〜ぉ 2人共っ 手が空いてたら、コレ 運んでくれない?」
         噂の主は、無邪気な表情でアルベルトとジェットに声を掛ける。


        「 くおぉぉらぁぁぁぁっ!!! 」

        「‥‥‥‥ は? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ きゃああぁぁぁぁっっ!!!」


         げしっげしっげしっげしっ
         がこっがこっがこっがこっ
         どかっどかっどかっどかっ



         雄叫びと共にフランソワーズに襲い掛かったジェットが『 いっちょシメたれや 』
         ‥‥と、思ったか否かは 定かではないが、襲い掛かった相手 と 横を陣取って
         いた『 天敵 』達 によって、敢え無く 中断させられるコトとなった。
         アルベルトは弁慶の泣き処に蹴りを、フランソワーズは脇腹に肘鉄を撃ち込んだのだ。
         思わぬ仕打ちと 想像を絶する痛みに、頭部(あたま)を抱えて しゃがみ込む。
        「 え なっ 何 なのよ 一体っ」
        「何 誤魔化してんだよっ!」
        「‥‥ ジェット‥‥?」
        「オレは騙されねぇぞっ‥‥ そんなの ‥‥らしくねぇ よっ」
         フランソワーズは、きょとん とした表情でジェットを見上げている。
         手伝いに呼びにきた処を、イキナリ襲い掛かられるわ、その相手は
         泣きそうな表情で、自分を ‥‥ 心配 している ‥‥ らしいし。


        「嫉妬して、八つ当たりして、すっげ〜嫌なオンナっぷりは ドコ行きやがった!?」



        「‥‥ねぇ アルベルト わたし‥ 厭味を云われてる? ‥もしかして」
        「‥‥それを俺に訊くか?」
        「訊いているのは わたし よ?」
        「だから訊かれたコトを 俺に訊くな と云っている」
        「冷たいのね‥ 仕方ないじゃない あなたしか訊ける人間 居ないんだもの」


        「ヒトの話を聞きやがれっ!!!」


         ‥‥ フランソワーズが はふぅっ と、盛大な溜息を付く。
        「溜息を付きたいのは こっちなんだがな」
        「だって 訳判らないんだもん」
        「‥‥だからと云って 俺を巻き込むな」


        「お前らぁぁっっ!!ヒトの話を聞けと云ってるだろぅがぁぁっっ!!!」


         ジェットが『 本格的に 』キレたらしい。
         アルベルトとフランソワーズは一瞬 視線を遇(あ)わせて、口を噤(つぐ)んだ。



        「じゃ 手伝って お茶を淹れたから呼びにきたの ‥ちょっとは働いたらどう?」
         云うなり、フランソワーズはジェットの腕を掴んで立ち上がらせようと試みる。
        「‥‥他に云い様は ねぇのか」
        「 あら 『 嫌なオンナ 』だと称賛して下さったのは 誰 だったかしら?」
        「そう云う意味じゃねぇ‥ ょ」
         哀しげに見据えられた ジェットの瞳が 長い前髪に隠されたかと思うと ‥‥

         フランソワーズの それ よりも 遥かに大きな躯 に 抱え込まれていた。



        「‥‥ジェット ?」
        「 ‥‥‥‥‥‥ 」



         自分の胸の辺りから柔らかく迫(せ)り上がって来る 普段よりも少し低めの声音。
         抱いているのに、抱かれているような錯覚さえ 起こさせる。
        「どうしたの? ‥アルベルトにでも叱られた?」
        「‥‥オレは子供かよ」
        「‥‥子供 でしょ」


         くすくすくすっ

         普段と何ら変わらない フランソワーズ。だからこそ、余計に ‥‥

        「何で 笑うんだ‥‥」
        「微笑っちゃ いけない?」

        「‥っ な、引き攣ったような‥無理なっ 笑顔 なんざ‥っ」
        「何だか‥‥微妙に複雑 よね『 引き攣った 』なんて云われると‥ ま、
         わたしだからいいけど ‥他の女性に云ったら 即効 フラれるわよ」
         と、困ったような笑みを浮かべながらフランソワーズは、自分の躯に廻された
         優しい腕 に そっと ‥ 頬を寄せた。




        「‥‥悪いけど 少しだけ見なかったコトにしておいて」
        「 ‥‥ へ ? 」
        「暫くしたら、『 普通 』に微笑えるように‥ なる‥ から」
         ちょっとだけ 我慢して と、云いながら ゆっくり とジェットの腕を振り解く。
         心持ち 顔を上に向け、隠れてしまったジェットの顔を覗き込む。



        「心配してくれて ‥‥ ありがとう ‥‥ジェット」
         ジェットは俯いたまま、黙っている。
        「困ったわね‥ どうしたら機嫌を直してもらえるかしら」

        「‥ 何があったんだ?結局の処」
        「巻き込まれるのは 厭 なんじゃなかったの ‥‥アルベルト」
        「表情が‥‥以前に戻ってるんだ と‥‥ジェット曰く、『 ヤツ 』に逢う前に」

         フランソワーズの瞳が驚きで、大きく見開かれた。

        「ジェット が 云ったの?」
        「‥‥あぁ」
        「変えたつもりはなかった けど‥‥ そう 見えてたってコトか」
        「せめて この『 鼻 』に 感付かれない程度に‥‥しておけ」
         煙草を揉み消し、アルベルトは ゆっくり と ソファから立ち上がる。


        「善処‥‥ するわ」
        「‥‥ そうだな 」
         ひんやり と鋼鉄の手が、頬に触れてくるのを感じた。
         薄淡色の青の双眸がフランソワーズの蒼い瞳を捉え、ぽんぽんっ と頭を小突く。
         アルベルトの、その行為にフランソワーズはほんの少しだけ ‥‥ 肩の力を抜いて

        「 ‥‥‥‥‥ 」

         仄かに ‥‥ 微笑んだ。



            何処までも 儚くて 透んだ 哀しい 笑み は

            見ている だけ で ‥‥ 心が 痛い ‥‥




         カチ カチ カチ カチ ‥‥

         時計の音がリビングを我が物顔で支配する 一瞬。



         佇む3人に重なる ‥‥ 遥かな 記憶


         アルベルトは何も云わない
         フランソワーズも云わない
         ジェット も また ‥‥



                     『 第1世代 』




         それは 決して消えることのない ‥‥‥ 自分達の 『 原点 』

         多くを 失って ‥‥ たった1つ を 得た ‥‥



                     唯一の 『 拠り処 』












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