その .




















めそめそめそめそめそめそめそめそ
えぐえぐえぐえぐえぐえぐえぐえぐ














「…っだ〜ッ!!泣き止めっ!幾つだっ!?」
「18」
「素で即答すンなっ!!」






しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく……







「ぁ〜、悪かった 邪魔して」






しくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしくしく……










広い、とは云い難い 車の後部座席、で。涙を流す、大きな子供。



「確かにオマケは付いてるけどよ」
「誰が『オマケ』だ」
「うっわ、自覚ねェって最悪」

───…ほぅ?」



『オマケ』と称された───…何故か居合わせた上、運転席を陣取る、万年三十路独逸人は悠然と煙草を燻らせながら、
慣れたハンドル捌きで車を操っていく。



───…変わらんな お前達は」

「アンタは老けたんじゃねぇ?」


けっ、と横を向いて唇を尖らせるジェットの姿は『悪餓鬼』以外の何者でもなく。


「お前等は確実に退化してるな、何処も彼処も」

「それは、ジェットだけ〜」
「へーぇ?ジョー、ちょいオモテ出ろや」










────────

───…どうした?」


助手席で俯くフランソワーズをアルベルトはミラー越しに覗き込んだ。
見上げてくる瞳が、微かに揺れる。


「ちょっとだるく、て……時差ボケ、かも」


「顔色が良くないな 少し眠ったらどうだ」
「でも、運転してる隣、で」

「構わんさ」



亜麻色の髪に指を差し入れ、くしゃり、と撫ぜてやる───…と。
穏やかな笑顔を浮かべ、フランソワーズは緩やかに瞳を閉じた。



「あり、……が、と─────…ぅ」




失神するように、眠りに落ちた姿を確認すると、其の眠りを醒まさぬよう静かに…アクセルを踏み込んだ。




















ぎりぎりぎりぎり



────不可解な音は、ある意味お約束。

後部座席に追い遣られていた若者2人組は、歯軋りをしつつ、アルベルトを睨み付けている。
それはもう悔しそうに。
それでも声を荒げないのは一重にフランソワーズを気遣っているからである。



────…悪かった お前達の帰国に合わせて戻ってきて」

「別、に…いっけど」






ふ、と 訪れる沈黙
圧し掛かる、忘れらぬ、情緒の記憶

全てを凌駕する、其れ───────…










「余り眠れていないんだと、思う…────能力(ちから)が安定しないみたいなんだ」




口火を切ったのはジョー、で。


「本人が、そう云ったのか?」

───…でも電話の声、何時もと違ってた」

「そうか」




───其れ、は

隠し通せぬ程、疲弊している『事実』の裏付け。



誰よりも強か、で
誰よりも嘘吐きな 彼女(ひと)───────‥




脳裏を掠める、のは

聞き及んだ、記憶の底に根を張る、憑き物のような過去。








誰よりも強か、で

誰よりも嘘吐きな









そう云えるに至る迄────


膨大な 時
流れた 血
流した 涙



知り抜く『共に在った(過去から来た)者達』との間に形成された、別格の絆。




    ───知覚、させられる






共に在った者









言葉を聴く度
ささくれ立つ、心








蠢く、感情(きもち)





















「それはお前達も同じだろう 個人差はあれ、戸惑いはある」
「君、も?」
───…あぁ」

「オレは殆どないぜ?」

「脳みその皺が、か?」
「なっ……!」



ジェットが反論する寸前、見計らったかの如く掛かる、急ブレーキ。




「ぅををっ!?」


がくん、と不自然な振動が有り…────車は止まった。



「あっぶね〜ぢゃねぇかっ!!」
「ジェット 飲み物買って来い」
「何だよ イキナリ──…飲みたきゃテメェで買ってきやがれ」

「阿呆、俺じゃない フランソワーズだ───…熱がある」

───…それを先に云え」




ジェットは後部座席のドアを開ると、勢いよく駆け出した。数百メートル先の微かに見える自販機、迄。
その後姿を確認するとアルベルトは、徐に己が横の運転席のドアを開ける。




「アルベルト?」




ジョーの『訊い』に、運転手を()って出ていた人は軽く手を上げ、合図を送る。



「暫く2人にしてやるから、精々、今のうちに話でもしておけ」
──────…ぇ?」
「2人っきりで居られるのは今のうち」


小さく呟くとフランソワーズの亜麻色の髪を『ひと撫で』し、後ろ手で扉を閉めた。















窓ガラス越しに響くエンジン音以外、遮蔽された空間、に漂う静寂。
意味も無く溜息を吐きたくなるソレ、から意識を逸らそうと、シートに深々と凭れ掛かる────…と 助手席のフランソワーズが鏡越しに視界に入る。





────…もしかして、起きてた?」


「起こされたのよ」



「話したいコトがあるの?ジョー」
「え?」
「2人にしてくれている、って事はそういうこと、でしょ?」


振り返るフランソワーズの表情に『苦悩』の色は、無く。



「よく判ってるんだね アルベルト、の事……
「長い付き合いだから」
────そう…だった、ね」




    ───詮無い事実(こと)、と 判っていても











突き刺さる『嫉妬』と云う名、の 苦い棘
















「そればかりは絶対に変えられない、よね…」


ジョーの科白(ことば)にフランソワーズは蒼く大きな瞳を見開いた。



「それは わたしの科白、でしょう────…?」




時空、も
関係、も







埋められぬ隔たりは、どちらも同じ











「わたしの時間は現在(ここ)よ…今更、だわ」
「そう、だね」
「変なの」

口許を綻ばせる表情(かお)に、既の愁いは見出せず。

ジョーはゆっくりと腕を伸ばし、フランソワーズの肩口を自分のほうへ引き寄せた。




────…ずっと 逢いたかった」

「…うん」




    ───夢に視る程…









「あの、さ」
「なぁに?」
「もう…フランスに行くの、止め、て」

───…え?」



「傍に、居て────…




時空(とき)の隔たり
敵う事無き 仲間(あいて)





    この気持ち、が
    只の我が侭、で


    口にすることが許されぬ
    叶うこと無き想い、でも



    それ、でも








                        それでも────────…














「居てくれない、と────…胸、が苦しい…」




    諦めるなんて
    手放すなんて


    絶対、に




                        出来る筈 ないんだ──────…















淡々と告げる、声
垣間見える、想い




「居させて、くれ る…?」



──…居て、欲しい」





綺麗な笑顔
頷く、仕草


説明不足の己の言葉に厭な顔1つせず、応えてくれる彼女、が。
その瞳に映る、全てが。




    ───何よりも大切、で







『傍に、居させて』










    ───居させて欲しい、のは














僕のほうだよ フランソワーズ
















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