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綺麗、な、(何も知らない)子供

綺麗なだけ(知らされていない)、の


───…なのに











全てを知って、尚

変わること、無く








羨ましくて 悔しくて

()が離せなくて───…





















「……結構な云われよう、よね」
「俺に振るな」
「冷たいのね」


フランソワーズは苦笑しながら、ゆっくりとジェットの腕を解く。


「心配させてごめん ねジェット」


ジェットは俯いたまま黙っている。


「ジョーと何か あったのか?」
「アルベルト…?」
表情(かお)が以前に戻ってるんだ、とジェット曰く『奴に逢う前』に」

「ジェット、が…云った、の?」
「…あぁ」
「別に変わったつもりはないけど」



ぐっ と後ろに引っ張られる感覚、が あって。
ジェットがフランソワーズの(からだ)を、後ろから羽交い絞めにする。
先程まで彼が抱え込んでいた クッションのよう、に。




「ちょっ…ジェットッ!」




フランソワーズはじたばたと暫く抵抗を試みたが、如何せん決定的な体格差。無駄な抵抗と諦め、大きな溜息をついた。
引き寄せたフランソワーズの肩に、赤い髪が顔を埋めるように凭れ掛る。
肩口に埋められた頭、に 自分の頬を寄せ、フランソワーズは ゆっくりと…澄んだ蒼い瞳を閉じた。

















コチ コチ コチ───…


時を刻む音だけ、が 静かに響く中、アルベルトは無言のまま、眼前の光景を眺めていた。
寄り添う2人の姿に重なる、奇妙な既視感(デジャヴェ)









渇風
砂塵




只 互いの躯に 寄り添う
激しい抱擁、も 快楽を求める行為、も 無く



瞳を閉じて
密やかに




重なる 息遣い




其れは 傷付いた精神(こころ)を癒す、神聖なモノに─────…思えて











『第1世代』











彼等だけが存在していた時代、の 残像

















「…こればかりは 仕方がないのよ」



最初に静寂を破ったのは、フランソワーズ。


「全てが上手くいく事のほうが珍しいのよ……恋愛、なんて」
「上手くいかない、のか?」



穏やかに話を切り出したのは アルベルト。



「彼は…ジョー、は 誰にでも優しいから」


皮肉にも他人に言った筈の科白(ことば)が、確実に自分の胸を抉ってゆく。





「皆が大切、皆が大好き、って人間(ひと)に…」




    ───云える訳、ない




「困らせたくない、の」








困らせる、より

泣く方が、いい















「お前さんは…それで いいのか…?」


アルベルトは煙草を揉み消すと、色素の薄い瞳、で 真っ直ぐにフランソワーズを見つめる。


「彼が笑ってくれるなら 其れで充分」


ふわり とそよ風のように仄かな微笑を浮かべ、フランソワーズは瞳を開いた。空色の鮮やかな 瞳。


「そんなの…只の偽善じゃねぇか」


無言のままフランソワーズの肩に顔を埋めていたジェット、が 唸るようにぼそり、と、低く呟いた。








「判ってる、でも…ね───…








不自然な沈黙があって。







───…望みは只1つだから…其れ以外は 要らない」










何処までも 透明な、微笑み。









「紛い物、も 類似品、も 誤魔化し、も… わたしが 欲しいのは…そんなのじゃ、ない」










欲しいのは

たった1つ

あなたにとっての『特別』











見ていられるだけ、で いい

あなたが微笑ってくれるなら

















───でも人間は贅沢な生き物、だから

   其れだけ、では 飽き足らなくて





「…困らせるの 判っている、の、に」




    ───願って、しまう









願わずには居られない












誰も見ないで


わたしを見て






















わたしだけ、を─────…















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