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強欲で 浅はかで




身勝手なのが 恋心
























「叶う筈、ない、のっ、に…」







静かに伏せられた睫毛、に 影が落ちる。
声、が 全身、が 震えているにも関わらず、涙を零すこと無く。漏れるのは微かな声、だけ───…



「…っ、…」



不意に背中の温もりが遠ざかる。 拘束が外され、ジェットは立ち上がったかと思うと、フランソワーズの後頭部を軽く小突き、無言でリビングから出て行った。
アルベルトもやはり無言のまま、髪をさらり、と ひと撫でして、やはりジェットと同じように…リビングを去ってゆく。


2人の無言の気遣い、が 胸に、沁みた。






「…あ、りがと、ぅ…」






去った背中、に 呟いて。

ソファに膝を立てて座り、膝頭に額を擦り付け…誰にも気付かれぬよう、そっと 涙を流した。























陽が西へと傾き、足許から落ちる影が長く灰褐色の尾を引く。
あれからどれ程の時間が経ったのかしら、と 薄ぼんやりとした頭でフランソワーズは考える。


───何時の間にか意識を飛ばしていたようだ。
頭からすっぽりと包まれた上着、に残る、微かな体温、と 柔らかな気配。
その温かさ、が 気配、が───…己を護っているように感じるのは、気のせい、だろうか。



ぎしり

軽い振動と共に、腰掛けているソファが揺れる。
───感じる、上着と同じ、気配。慣れ親しんだ、温もり。
どうやらフランソワーズとは反対側の端に、上着の持ち主が腰掛けたようである。
云わずとも伝わってくる───…心遣い、と 寄せる想い。




「ねぇ…どれ位経てば 平気になれる、かしら」

「…………」

「傍に居られるだけ、で 充分、なの、に」

「…………」

「平和で 静かに暮らせて…傍に居て───…幸せ、なの、に」




    ───幸せ、な筈、なの、に

         何故、こんなに苦しい?


            苦しく、て


               苦しく、て













見ていられるだけ、で いい

あなたが微笑ってくれるなら












そんな、只の綺麗事

それじゃ、足りない












誰も見ないで

わたしを見て



わたしだけ、を見て───…





















剥れ落ちる、メッキ(建前)

容易く露呈する本音
























寄り添う、柔らかな気配の持ち主、は その口許に柔らかな微笑みを浮かべ、フランソワーズの独白を聴いていた。









───…ごめん、ね」









聴こえた其れ、は フランソワーズの予想とは違う、甘く響く、テノール。
慣れ親しんだ温もり
柔らかな 気配、の

心ときめかせる 唯一の─────…





「…ジョー…っ!? なっ…なん、で…?」





驚いて身動ぎするフランソワーズにジョーは、静止の声を上げた。



「ごめん───…そのまま、聴い、て」



刹那げ、な…吐息混じりに囁かれる声、に フランソワーズは思わず頬を染め…黙って俯いた。








───…上手く、云えない、…けど… そ、の…」


段々と小さくなるジョーの声にフランソワーズは、不安感を募らせる。過ぎるのは『最悪の状況』ばかり。


「な、に…?」

「多分、嫉妬、してた…んだ、と、思う……ジェットとアルベルト、に」

「ぇ…?そ… ぅな、の …?」



「…うん」




フランソワーズはゆっくりと顔を起こす。
其処には、フランソワーズよりも更に紅い顔、の 優しい気配の持ち主。



「みっ …見ないでよっ すっごく恥ずかしいんだからっ」



慌てて瞳を逸らす其の表情、は まるで幼子のよう、で。







「…ふっ…」






フランソワーズは 頭上から被せられた上着に 顔を埋め───…やがて くすくす、と 声を上げて笑い出した。




    ───ああ、この人は…





「そこで 笑うかなぁ〜…普通…」


情けなさそうな声に、フランソワーズの笑いは ますます深まってゆく。
その表情(かお)は、泣き笑いのようでも あり─────…




「不安──…だったんだ…」




    ───呼び名を持たぬ、想い










綺麗、な、子供

綺麗なだけ、の




真実を知って尚

曇ること無き瞳















埋められぬもの

埋められるもの




護りたい、もの

護られたいもの










貴方と云う人間(ひと)

構成する全て、が






















こんなにいとしい
























───あの 時

魔人像から 投げ出された、瞬間
過去、が…沢山の人の表情、が 走馬灯のように 通り過ぎた




    ───自分のやった事に、後悔はしていなかった、けど





疾り抜ける、記憶の中

一際、鮮やか、な




フランソワーズ、の 笑顔




    ───もう一度 逢いたい、と 思った
















逢いたい



声、が 聴きたい












僕、を …呼んで

微笑んで、欲しい













『フランソワーズ』













名前、を 呼ばせて

触れさせて



泡沫の夢でも構わない、から










「今でも…よく、判らない…と、思う」

「…うん」

「でも、本当…だから」





    ───何時も どんな時も













あなたのことを想ってる























「フランソワーズ」




そっ、と 呼びかけて。
囁きは明確な意志を持ち、互いの視線が絡み合う。頬に淡い紅色を差したまま。






「聴いてくれる?僕─────…























この後 どうなったのか

それは2人だけの 秘密















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