逢魔ヶ刻 |
耳の奥深く 響く血流音
躯中が心臓になったようだ、と 表現したのは誰だっただろうか 「…恋人、ですか?」 「姉、です───…唯一の理解者、でした」 「理解者…?」 浮かべると、視線を 暫し逡巡した後、ふーっと息を吐き出し、ブレーキを緩く踏み込んだ。 信号が赤へと変わるのに合わせ、減速してゆくのを座席シートの振動で体感する。 「自分は 「…ぇ?」 確かに聞いた 「皆が非難する中、姉だけが味方でした」 そう云った彼は、困るとも、 判るのは過去形で表現されている事だけ。 唯一の人間が過去形なら、現在は誰も居ないのだろうか、と、疑問が頭を掠める。 ───勿論、面と向かって訊きはしなかったが。
胸を刺す 明滅する
気付いた ───…なんて
出来過ぎな程の 「何故…其れを、わたしに?」 柔らかに懐かしさを滲ませ。 わたしで無い、わたし、を、見つめる瞳。
わたしを見ない、 最近、此れと同じ 「誰かに…知って欲しかったのかもしれません」 人間が犇めき合う都会の中でさえ、孤独を感じるから。 疎外感 劣等感
「わたしは此処にいる」 そう云った彼の気持ちが、判るような、気がした。 形骸は違えど、わたしにも確かの憶えの有る、感情だから 付き纏う、寂寥感。 干渉されたくない。でも無関心は刹那過ぎる。 相容れようの無い、矛盾した、想い。 ───故に 其の矛盾を埋めよう、と、足掻く。 過去を懐かしく思う、それで居て、過去と現在を結ぶ線を疎ましくも思う。 在りし日の面影に、酔う 胡乱な誘いに耳を傾ける 魔が差す 出逢った、あの時のように───… 「如何でしたか?先日の展示会は」 初めて逢った 週末の夜の中華街は普段以上に 最近になって都内から乗り換え無しの直通電車が増えた事も起因しているのかもしれない。 中華料理、と聞いて思い浮かべる回転する円卓をそのまま具現化したような其れには、 一般庶民には殆ど縁の無い品々、しかもまれに見る大きさのものばかりが並べられている。 「素材の味は淡白なものばかりだと思いませんか?」 「───…そ、です、ね」 男は楽しげに口許を綻ばせ、小皿にバランス良く料理を取り分けてゆく。 菜箸と見紛う長さの箸を用いて行なわれる、一連の動作は、流れるように滑らか。 己より遥かに年長の男性に、此処まで甲斐甲斐しくやって貰ったのは初めてで、幼少時代に返ったような、 申し訳ないような、自分が社会人として無能の烙印を押されたような、奇妙な感覚に囚われる。 思考が表情に出ていたらしく、男は慰めるよう、に、場を和ませるように、切り出す。 「鬱陶しいですか?やっぱり」 「はい?」 「やっぱり今みたいに、こう…やっていたら『子供じゃないんだから自分で出来るわよ』って」 困ったような科白とは裏腹に、酷く幸福そうに男は微笑みを湛える。 「亡くなった妻、が…『彼』の姉にあたる人なんですが───…」
耳の奥深く 響く血流音
かちり、と 符号が、あった |
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